SSブログ
遙かなる星々の物語 ブログトップ
前の10件 | -

【遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~】【楽園】1-1 [遙かなる星々の物語]


 のっけから大幅に更新が遅れてしまって申し訳ありませんorz 1月は精神的に厳しかったとはいえ、まさかここまで延びてしまうとは・・・T^T 期待して待っていてくださったみなさまには本当に返す言葉もありません。ようやくペースが掴めてきて、今後はスケジュール通りに更新できると思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 本日はウェヌスの章【楽園】パート第1章その1を公開します。ルビ等は単語のあとに()で記載してあります。ちょっと読みづらいですがご容赦ください。【最終更新日:2011/03/03(挿絵追加)】

 イラスト:蓮花さん(サイト:「枯花」) 感謝♪


テラの章】 <- Previous Story                         Next Story -> 【???】

page001.pngpage002.png
『遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~』概要
この宇宙を遍く様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。ウェヌスの章はテラの章に続くこの太陽系創世紀のお話――金星創造をテーマとしたストーリーです。
《あらすじ》
 地球の現実を変異させた女神(テリス)現出事件から十三年、朔夜は作人と結ばれ二児の母となっていた。創星界(エデン)とのコンタクトもなくなり、平凡な幸せを謳歌(おうか)していた朔夜はだが、久しぶりに『記憶(エピソード)』の奔流(ほんりゆう)に襲われる。
 この惑星、いつか在った時代、無有(ムウ)亜大陸の亜須華(アスカ)という都市に、亜紗(アーシヤ)という乙女が暮らしていた――。
 突然蘇った『記憶』は、朔夜にその都市に起こった未曾有(みぞう)の大災害を幻視させる。この過去は、朔夜に何を伝えたいのか? 全ての『記憶』の起源たる女神(テリス)の身に、いったい何が起こったのか? この現実に、また何か事件が起こるのか……?
 『世界』を巡る新たな戦いの火蓋が今、切って落とされた。

 過去から未来まで、『世界』全てを巻き込んだ壮大なる物語。
 『世界』が変質を繰り返した先で、【悪魔】は【女神】となる――

※この物語は【楽園】【冥星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください

登場人物紹介
プロローグ/【楽園】1-1/1-2(2011/02/27公開予定)》


【楽園】1-1



 暖かく降り注ぐ陽差し、絶えなく流れる悠久(ゆうきゆう)の調べ。

 鳥は歌い、花々は華やぐ。

 鼻孔いっぱいに広がるふくよかな香り。

 髪を揺らしていくそよ風のささやきは優しい言葉を耳に残し、さらさらとした木々の葉ずれは心に平安のリズムを運んでくる……。

 全てが優しさと暖かさに満ち、存在そのものを謳歌(おうか)している――そんな《世界》。

 これが、お母さまが創った《世界》……。

 暖かな春のそよ風が首筋を撫(な)でていくのを感じながら、テリスは立ち止まり目を閉じた。

 この《世界》の奏でる言葉を全身の感覚で感じ取りたい……この優しさに満ち溢れた素晴らしき《世界》の音楽をその魂で聴き取りたい……。

 耳をくすぐる鳥たちのさえずり、木々や花々の葉ずれの音……身体をなでる空気の波は、溢れんばかりの生命の謳歌に満ちている。

 目を閉じれば、まぶたの裏に踊る煌めき。生きとし生きるモノの歓喜の渦――

 全身の感覚を研ぎ澄ませたその瞬間、まるで爆発したかのごとくに生きることへの喜びがテリスを包む。

 まるで自分の細胞の一つ一つまでもが喜びの声をあげているかのようだ。《世界》から押し寄せる生命の煌めきに感応したかのように、自分の身体の細胞の一片に至るまで得も言われぬ幸福感に沸き立ち、弾けて《世界》の中へと溶け出していく……。

 そう、それはまさに生けとし生けるモノの奏でる歓喜の輪曲(ロンド)だった。この《世界》とそこに生きる全ての存在(モノ)が渾然一体となって奏でる生の賛歌。そこにはただ生きて存在していること、それ自体への感謝と喜びに満ちていた。

 光と優しさに包まれた至福のひととき――

 そこはまさに《楽園》と呼ぶにふさわしい世界だった。

 わたしも、このような《世界》を宿せていたなら……。

 目を閉じたまま空を仰ぐテリスの頬に、知らず一筋の涙が伝う。

 存在の始めからその向くべき方向を間違えてしまったわたしの《世界(こ)》――この優しく暖かな《世界》に比べ、なんて寒々しく痛みに満ち、そして貧しい《世界》なんだろうか……。

 本来、暖かく光に満ちた祝福されるべき存在として生を受けるはずだったわたしの《世界(こ)》は、闇と絶望の呻(うめ)きの中で、その産声をあげてしまった。あまりにも弱いわたしの心と、愚かしい望み(エゴ)のために、その存在すらねじ曲げられて……。

 つ――反対側の頬に流れ落ちるもう一筋の雫。

 でも……それでも……どれだけ愚かしかったとしても、どれだけ青臭く間違った行為だったとしても、わたしはこの望みを止められなかった。自分にとってこの《世界》にも等しかった大事な半身――文字通り魂の片割れを失いたくはなかったから……。

楽園1-1-1.gif


 だが、その望みの代償はあまりにも大きかった。

 それは、すぐに思い知らされる。

 その結果、少女に宿ったのは鬼子のような不具の《世界》――痛みと苦しみと絶望に彩られた歪んだ《世界》……。

 まさかあの時あの瞬間、《宿す者》の能力(チカラ)が発現するとは、テリスは想像だにしていなかった。《創星の女神》にとって一番大事なその能力。それまでその予兆や片鱗すらなかったそれが、まさに最悪のタイミングで自分の中に宿ることになろうとは……。

 いや、よそう――テリスは力なく首を振る。

 過去を悔やんでもしょうがない。あの時、あの瞬間、わたしは確かに望んだのだ。この、痛々しい《世界》の出現を。己の心にのしかかる現実の重さに圧し潰され、どこまでもどこまでも、己の望みのままに逃げ込む《世界》を求めてしまった。百億の悲劇と百兆の不幸とそれを上回る痛みと苦しみ――その源になるとは夢にも考えずに、ただただ、己のエゴのままに《世界》の創造を願ってしまった。そしてその強い強い望みに、この《能力(チカラ)》が引きずられてしまった……たぶん、そういうことなのだろう。

 一つの《世界》をその身に妊(はら)むには、あの時のわたしは幼すぎた――

 もはや変えられないその事実が、鋭い痛みを心臓に宿す。

 そう、ただただ申し訳ないのだ。不完全な幼い精神のままに形作られてしまったがために、不具となってしまったこの《世界(こ)》に謝りたい。本来もっと幸せに、喜びに満ち溢れて存在できるはずのこの《世界》を、自分の未熟さから、こんな辛い、苦しみの中へと放り込んでしまった。謝ってすむことではないが、そのことをただ謝りたい……。

 喜びに満ちた生命の賛歌に包まれながら、テリスは天を仰ぎ涙を流す。

 でも……それでも……。

 例えどれほど醜くあろうとも、どれほど忌み嫌われるべきモノであろうとも、テリスはその《世界(こ)》を見捨てることはできなかった。己の中に宿った生命(いのち)に、不思議な愛おしさを感じていた。

 そこに宿る無限の魂から恨まれののしられたとしても、わたしだけはこの《世界(こ)》を祝福してあげたい――。

 そう、心から願っているはずなのに……。

 なんでこんなにも涙が出てくるのだろう。なんでこんなにも悲しくてならないのだろう……わたしはこの《世界(こ)》に……厳しく辛い運命を背負わせてしまった我が《世界(こ)》に……何をしてあげることができるのだろう……。

「それ以上、自分を責めるのはやめた方がいい」

 泣き咽(むせ)ぶ背後からふわり――と肩に回される腕。

 ザザァ……と風が周囲に渦を巻いていく。

「聖太母(ソリス)様も言っていた。《世界》の在りようはまだ決まったわけではない、と。限りない愛と慈しみの心で、これから歪みを正していけばいい。そう、決めたはずだろう……だからそんなに自分を責めるな」

 背後から聞こえる優しいバリトン。振り向かずとも分かる。いつ、いかなる時でも《蒼地の女神(テリス)》を護り、支える唯一の騎士。隻腕となったその腕で、それでもテリスを優しく包む、強き魂(スピリツト)を持った人――

 この言葉に素直に従えたらどんなにかいいだろう……。

 その温かな気配にすがりつきながら、テリスの両目から大粒の雫が落ちる。ともすれば嗚咽(おえつ)になりそうな声をぐっと堪え、唇を噛みしめるように声を出す。

「でも……今まで生じた数多(あまた)の苦しみや痛み、悲しみや憎しみは消えやしないわ。分かるの。この《世界(こ)》が苦しんでいるのが。抱えきれないほどの怨嗟(おんさ)の声と負の感情(エネルギー)に己の裡(うち)を喰い潰されながら、なんとかしようと……でもその存在の方向がそもそも歪んでいるが故に、ますます悲劇を……負の連鎖を生じさせてしまう……そんな救いのなさの中で……」

 最後の方は嗚咽に消えていってしまったかもしれない。それを察したのか、テリスを包み込む腕にぐっと力が入る。

「その救いのなさこそ我々の咎(とが)。その苦しみの永劫輪廻から《胎内世界(エンブリオ)》とそこに宿る魂を解放する途(みち)を、我々は探さなければならない」

 共に、苦難の途を歩んで行こう――そう囁(ささや)く隻腕の騎士(ルネラナス)。

 何があっても独りではないから……どんな苦難も過ちも、独りで背負い込む必要はないから……。

 その《想い》は、テリスの凍えた心に落ちる。

「だめね……わたしったら……。この《世界(こ)》が苦しんでいるからこそわたしが頑張らなければならないのに、先に悲しみに負けたりして……。そんなんじゃ、救えるものも救えないわ……」

 両の目から落ちる涙をスッとぬぐうと、ルネラナスの腕から逃れるテリス。そのまま前に二、三歩進むと、風に舞うスカートを押さえてくるりと振り向く。

「《創星》はまだ終わったわけじゃない。むしろこれから……どんな《世界》を思い描き、どんな《世界》を形作るか。この《世界(こ)》の成長した先……どんな未来を用意するかはわたし次第。わたしの心はそのまま《胎内世界(エンブリオ)》に影響していく……だから……」

 正面から愛しい騎士の顔を見て、肯くテリス。

「何より、わたし自身がこの《世界(こ)》とその行く末を、信じてあげなければならない。その、明るい未来を、心に描かなければならないんだわ。お母さまにもそう言われたもの……わたしの能力(チカラ)は、そのために振るう」

 顔に宿る、ふわりとした微笑み。だが、そこには悲しみや苦悩や、諸々の苦しみを押し殺した跡があった。

楽園1-1-2.gif


「テリス――」

 無理はするな――その表情に思わず足を踏み出しかけるルネラナス。

 ザザザッ――と足先で擦れた草が鳴る。

「でも……でもね……わたしの心は弱いから……」

 ルネラナスの目の前で、女神(テリス)の表情が変わっていく。微笑みから泣き笑い……そして悲しみを宿した表情に。

「たぶん今、この瞬間と同じく、わたしの心が悲しみに負けそうになってしまう時が来る。希望に満ちた行く末を、描けなくなってしまう時が来る。この《世界(こ)》の抱える絶望に、負けそうになってしまう時が来る。その時は――」

 すっ――と何かを求めるかのように差し出された手。隻腕の騎士(ルネラナス)は一歩、強く踏み込みその手を掴む。

「どうか、どうか、わたしにこの温もりを思い出させて。わたしが独りで戦ってるんじゃないと、思い出させて。さっきのように、わたしの心を覚まさせて……」

 お願いします。わたしの騎士さま……。

 《声》が、涙と共に地に落ちた。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


(【楽園】1-2へ続く)


nnr.gif ネット小説ランキング>SF部門>遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~に投票

この章が気に入ったら上記「遥かなる星々の物語~ウェヌスの章~に投票」をクリックしてください♪


タグ:創作小説

イラストいただきました♪^^ [遙かなる星々の物語]

ウェヌスの章のイラストを担当してくださっている蓮花さんから、とってもステキなイラストを頂きました♪

   蓮花さんのサイト「枯花」は→こちら



冥星パートのメインキャラクターの一人である亜紗(アーシャ)です。う~ん、雰囲気が良く出てる^^

アーシャ.jpg


遅れに遅れまくっている原稿ですが、近日中に最初のパートをUPできると思います~。
こんなステキなイラストいただいたら頑張って書くしかないですからね!!!
気合い気合い!!!(笑)

うし、頑張るべ~
タグ:創作小説

【遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~】登場人物紹介 [遙かなる星々の物語]


 今日はウェヌスの章の登場人物紹介を公開します。舞台はテラの章の13年後、前作を知っている人は色々見比べてニヤリとしてくださいw^^
 ちなみにキャラデザラフは蓮花さん(サイト:「枯花」)に描いていただきました♪ 蓮花さんには本文挿絵も描いていただくことになりましたので、皆さんお楽しみに♪♪

 本日はウェヌスの章登場人物紹介&用語解説を公開します。ルビ等は単語のあとに()で記載してあります。ちょっと読みづらいですがご容赦ください。

追記)2011/01/25 亜紗のイラストをUPしました


テラの章】 <- Previous Story                         Next Story -> 【???】

page001.pngpage002.png
『遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~』概要
この宇宙を遍く様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。ウェヌスの章はテラの章に続くこの太陽系創世紀のお話――金星創造をテーマとしたストーリーです。
《あらすじ》
 地球の現実を変異させた女神(テリス)現出事件から十三年、朔夜は作人と結ばれ二児の母となっていた。創星界(エデン)とのコンタクトもなくなり、平凡な幸せを謳歌(おうか)していた朔夜はだが、久しぶりに『記憶(エピソード)』の奔流(ほんりゆう)に襲われる。
 この惑星、いつか在った時代、無有(ムウ)亜大陸の亜須華(アスカ)という都市に、亜紗(アーシヤ)という乙女が暮らしていた――。
 突然蘇った『記憶』は、朔夜にその都市に起こった未曾有(みぞう)の大災害を幻視させる。この過去は、朔夜に何を伝えたいのか? 全ての『記憶』の起源たる女神(テリス)の身に、いったい何が起こったのか? この現実に、また何か事件が起こるのか……?
 『世界』を巡る新たな戦いの火蓋が今、切って落とされた。

 過去から未来まで、『世界』全てを巻き込んだ壮大なる物語。
 『世界』が変質を繰り返した先で、【悪魔】は【女神】となる――

※この物語は【楽園】【冥星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください

登場人物紹介
プロローグ/【楽園】1-1/1-2(2011/02/27公開予定)》


A【楽園(エデン)】(創星界)


《登場人物紹介》

アシュタロス
悪魔(グルーム)族を率い、執拗に《楽園》を脅かし続ける大悪魔。数周期を経て、神をも畏れさせる美貌の若者に成長した。聖太母(ソリス)や《楽園》に抱くその執着には並々ならぬものがあるようだが……

テリス
《楽園》を統べる象徴たる七姉妹の五女。幾周期にも渡る苦しみの煉獄(れんごく)の中からルネラナスによって救い出され、楽園唯一の《宿す者》として蒼髪美しい優しい心根を持つ女性に成長した。造反した姉たちやアシュタロスの手から《楽園》を護る戦いに身を投じる

ルネラナス
テリスの守護者であり、彼女を護る唯一の騎士。テリスを苦しみの煉獄(れんごく)から救い出した。出自に秘密を持ち、《楽園》で唯一アシュタロスに匹敵する異能(チカラ)を持つ。唯一残った左腕で振るわれる大鎌は空間をも切り裂く鋭さである。

ソリス
《楽園》の象徴であり、この《世界》を成り立たせる起源たる聖太母。造反した七姉妹の《母》であり、アシュタロスや悪魔(グルーム)族からこの《世界》を護り続ける。敵将たるニブルと並々ならぬ因縁を持つようだが……

ユピテル
七姉妹の長女でありアシュタロスの母。過去、《楽園》にまつわる《真実》を知ったことから、悪魔(グルーム)族と姦通し、妹たちをまとめて聖太母を裏切った。ニブルの実質上の妻

サトゥルナリア、ユアラナス、ネプテューヌス
ユピテルに従い《楽園》を造反した七姉妹

フォボス
七姉妹の六女であった故マルソーの騎士の一人。直情的な性格で猪突猛進タイプ。ツンツンと立てた短い赤の髪がトレードマーク

ダイモス
フォボスと双子で故マルソーの騎士の片割れ。フォボスとは対照的に冷静沈着な軍師タイプ。腰まである長い葵髪をトレードマークにしている

トラッシュ・オブ・ダイヤモンド
アシュタロスに影のように付き従う謎の男。常に影に潜み、その存在は通常ではうかがい知ることは出来ない。この《世界》に遍く存在する重大な種族の一員であり、時空間を操る能力を持つ

《D(ダーク)》
通称ダーク。《楽園》の深奥(しんおう)に厳重に封じられた封廟に幽閉されている謎の存在。過去、蒼星の騎士(ルネラナス)に不完全ながらも解放され、《楽園》に災厄をもたらした。言い伝えによると遙かな未来、彼の存在がこの《世界》を滅ぼすとされているが……

ニブル
???


《用語解説》

【楽園】
エデン。花咲き誇り、動植物が歓喜に歌う、この世の楽園たる機能を備えた一大都市。その機能は聖太母(ソリス)と七姉妹によって統べられ、維持されている

悪魔族
グルームと呼ばれる血と殺(さつ)戮(りく)を何より好む種族の総称。知能の低い低位種から不可思議な能力と高い知能を備える上位種まで様々な種族が存在する。上位種はオールトの雲の向こうに潜み、姿を現すことはめったにない

《宿す者(スターキヤリアー)》
自らの裡に《世界》を宿し、新たな生命を育む能力を持つに至った女神の総称。その能力は【楽園】を支え、維持するために必要不可欠。現在、【楽園】を支える《宿す者》はテリスただ一人となっている

精神世界
アストラル、スピリチュアル、ネットワーク等様々に呼称される、現実と重なる次元に存在する《世界》の総称。生物の精神の属する次元であり、物質世界では考えられない様々な特質を持つ

騎士
シバルリエ、もしくはシュバルリィと呼ばれる七姉妹や聖太母を護る守護者。彼らの存在はただ一人、その守護する対象たる女神のために捧げられる

創星界
《宿す者》の内なる《世界》の住人から見た【楽園】の総称。

塵魔大戦
七姉妹の離反に始まる悪魔族の侵略から、【楽園】を護るために行われた幾十周期にも渡る戦争の総称。その永き中では、光の如き輝ける闇の御子の姿と、それと激突する昏き光を纏った隻腕の騎士の姿が常に見られたという……




B【冥星】(テラ:六五〇〇年前)


《登場人物紹介》

依何奈(イナンナ)
光り輝くような黄金の髪を持った美貌の歌姫。本人はまだ自分という存在が直面する重大な運命に気付いていない。《大感染(パンデミツク)》の慰安のために《無有(ムゥ)》を訪れる。アシュタロスの相似体。


アーシャ2.jpg
亜紗(アーシヤ)
亜須華(アスカ)で暮らす蒼髪の乙女。思考が常に半分別の世界に行っているようで、いつも上の空でボーッとしている。それ故誤解されたり攻撃の標的になりやすく、彼女の人生は苦難と苦痛に彩られている。だがそのぼんやりとした外面は、不安や苦しみに潰されがちな内面を護るものかもしれない。


イナンナ&アーシャ.jpg


瑠那屍(ルナシィ)
《狂気人(ルーナシィ)》の二つ名を持つ国防の志士。能力は特A級だが精神が不安定であり、自らの裡(うち)に自分でもどうにもならない不安・衝動を抱えている。突如無有を襲った大災厄へと対処するために特命を帯び、危険地帯へ赴く。そこで出会う二人の女性が、彼の運命を大きく変える……

弟留多(デルタ)、願摩(ガンマ)
亜紀人と同じ治安維持大隊(シルバリオン)に所属する双子の志士。その性格は水と火の如くに正反対だが、二人で行動するのを常とする

死留馬(シルヴァ)
無有国防総省治安維持大隊(シルバリオン)大隊長。冷徹な目を持つ男

裟里桜(サリオン)
無有国防総省科学技官。《大感染(パンデミツク)》の原因を突き止めるべく奮闘している

不央具(フォツグ)
歌姫イナンナのマネージャー

或舞音(アルマイネ)
亜須華でそれなりに評価を受けている踊り子

亜虎素(アトラス)
大災厄(パンデミツク)の裏で暗躍する謎の男。額に喪われた古代人の紋章を持つ


《用語解説》

大感染
パンデミックまたは大災厄と呼ばれる大陸都市国家無有(ムゥ)を襲った病魔の厄災。その正体は未だ不明であるが、対象の精神に寄生し、精神/肉体共に変質させてしまう恐怖の病である。

無有(ムゥ)
バミューダ海域に雄大に浮かぶ亜大陸の総称。またはそこに発達した大国の総称。精神科学と天文学に特に強い知識を有し、同時に科学技術を発達させている。彼らの文明は、同時代に見られる他のどの文明よりも遙かに発達しているようだが……

亜須華(アスカ)
無有(ムゥ)の首都である大陸都市。摩天楼と呼ばれる大きなビルが建ち並ぶ人工都市だが、緑化に努め、自然との融合を果たしている。一億人の人口を抱えるギガシティ

治安維持特務大隊(シルバリオン)
無有(ムゥ)国防総省に設置された治安維持部隊の俗称。第一部隊から第八部隊まであり、それぞれが特命を帯びて無有全土に散っている

歌姫
歌と踊りで以て人々の精神を安定させる神聖且つ冒すべからざる存在。能力の強い歌姫になると、一人で数百万人の精神世界に影響を与えるだけの力を持つという




C【地球】(地球:AD2015)


《登場人物紹介》

望月朔夜(もちづきさくや)
旧姓汀良(テラ)。幼い頃から複数の女性の生涯の『記憶(エピソード)』を持ち、十三年前までこの世界を形成する『創星の女神(テリス)』をその精神に宿していた女性。あの戦いの後、ほどなくして作人と結婚。三十六歳の今では二児の母となる

望月作人(もちづきさくと)
月の化身であるルネラナスの相似体であり、十三年前創星の女神テリスの覚醒に一役買った男性。《創星界(エデン)》の存在を知ることで、この世の真実を明らかにすることに生涯を燃やし、ジャーナリストとして業界でも一目置かれる存在となりつつある。因縁深き飛鳥コンツェルンの企業の闇を追う

望月揚葉(もちづきあげは)
朔夜と作人の間に産まれた子。十歳。朔夜より謎めいた雰囲気を、作人より切れる頭脳を受け継いでいる

望月太陽(もちづきたいよう)
朔夜と作人の長男。六歳。やんちゃざかりの食べ盛り。とても活発で、良くタチの悪い悪戯をしては母の朔夜を困らせている

火群陽子(ほむらようこ)
テリスが生み出した火星の女神マルソーの依り代となった女性。勝ち気でボーイッシュな二児の母。朔夜と和美とは高校の頃からの大親友。十三年前の戦いの後、マルソーの精神は彼女の中から消失したようだが……

火群雅代(ほむらまさよ)
十四歳。ダイモスの相似体。母とは反対の内気で大人しい女の子。腰まである長い髪と眼鏡がトレードマーク。揚葉のお姉さん代わりを努めている

火群勇代(ほむらゆうだい)
十五歳。フォボスの相似体。中学生にしてはガタイが良く、柔道部のエースとしてならしている。作人に良く懐いており、たまに仕事を手伝ったりしている

ウェヌスの章キャラデザ.jpg



ウェヌスの章キャラデザ2.jpg

日向日影(ひなたひかげ)
《光の丘救世団》教祖であり最高指導者。四十歳。いつも穏やかで暖かい笑みを絶やさない人格者である。二十五歳の時に天啓を受け、《光の丘救世団》を創設する。彼の教えは常に正道を向き、この世界を良き方向へと導く道しるべとなる。

川島和美(かわしまかずみ)
一万五千年前のアトランティスに生きた下等人類(テラータ)の少女の記憶を持つ女性。《光の丘救世団》信者。尊主日向(ひなた)の教えに傾倒している



《用語解説》

《光の丘救世団》
現世における人類の救済を掲げ、全国に勢力を広げる宗教団体。この十三年間で政財界のキーパーソンを取り込み、日本という地に定着した。信徒数は二〇一五年現在、数百万人にものぼると言われており、その影響力は計り知れない

飛鳥コンツェルン
世界各国に大小取り混ぜた企業を有し、各国政府に強い影響力を持つ大財閥。日本における代表組織はナノテクを中心とした技術を有する飛鳥ナノテクノロジーズであり、その日本支社長を飛鳥=カルナイムが努めている

二〇二二計画
政財界を騒がしている日本遷都計画。東アジア経済圏構想の中心地として大阪・京都に日本の中心を動かそうという計画だが、誰が、いつ、何のために言い始めた事かは不明である。一説には宗教団体や大企業の思惑が裏に存在するとも言われているが……

東アジア経済圏構想
日本が中心となり、香港、台湾、フィリピン、インドネシア、ミクロネシアなど東アジアの国々で、伝統的な自然信仰(アニミズム)文化を礎とした新しい経済圏を確立しようとする構想。中国・韓国・インドらが中心となって展開する中央アジア経済機構に対抗する動きと言われている

アーク
溶け始めた南極の氷河から発見された謎の遺跡。推定五〇〇〇~一〇〇〇〇年前の物であると言われている

(プロローグへ戻る)


nnr.gif ネット小説ランキング>SF部門>遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~に投票

この章が気に入ったら上記「遥かなる星々の物語~ウェヌスの章~に投票」をクリックしてください♪


タグ:創作小説
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

【遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~】プロローグ [遙かなる星々の物語]


 あけましておめでとうございます_._
 本日から『遙かなる星々の物語』新章「ウェヌスの章」の公開を始めます。隔週日曜日更新のゆるゆるペースでやっていきたいと考えてますので、皆さんよろしくお願いします。
 ちなみに表紙イラストは蓮花さん(サイト:「枯花」)に描いていただきました♪ 蓮花さんには本文挿絵も描いていただけることになりましたので、皆さんお楽しみに♪♪

 本日はウェヌスの章プロローグを公開します。ルビ等は単語のあとに()で記載してあります。ちょっと読みづらいですがご容赦ください。


テラの章】 <- Previous Story                         Next Story -> 【???】

page001.pngpage002.png
『遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~』概要
この宇宙を遍く様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。ウェヌスの章はテラの章に続くこの太陽系創世紀のお話――金星創造をテーマとしたストーリーです。
《あらすじ》
 地球の現実を変異させた女神(テリス)現出事件から十三年、朔夜は作人と結ばれ二児の母となっていた。創星界(エデン)とのコンタクトもなくなり、平凡な幸せを謳歌(おうか)していた朔夜はだが、久しぶりに『記憶(エピソード)』の奔流(ほんりゆう)に襲われる。
 この惑星、いつか在った時代、無有(ムウ)亜大陸の亜須華(アスカ)という都市に、亜紗(アーシヤ)という乙女が暮らしていた――。
 突然蘇った『記憶』は、朔夜にその都市に起こった未曾有(みぞう)の大災害を幻視させる。この過去は、朔夜に何を伝えたいのか? 全ての『記憶』の起源たる女神(テリス)の身に、いったい何が起こったのか? この現実に、また何か事件が起こるのか……?
 『世界』を巡る新たな戦いの火蓋が今、切って落とされた。

 過去から未来まで、『世界』全てを巻き込んだ壮大なる物語。
 『世界』が変質を繰り返した先で、【悪魔】は【女神】となる――

※この物語は【楽園】【冥星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください

登場人物紹介
プロローグ/【楽園】1-1/1-2(2011/02/27公開予定)》



プロローグ



 闇の帳(とばり)が落ちる。


 目に映る光も影も、ほんの少しの気配もない真なる闇。
自分の中で息づく生命の鼓動でさえも、その闇の中では溶け出し、静寂に包まれる。


 音もなく光もなく気配すらもなにもないその空間。


 そこでは存在していることですら、
集中して意識を集めないことにはどんどんと朧(おぼろ)になっていく。


 良く、気が狂わずにいられるものだ――


 光も闇も音も匂いも風も温度もほんのわずかな気配やゆらめきも、その空間には存在しない。
まさに、“無”と言うにふさわしいその状態――


 いや、全き“無”ではあり得ないか。


 何故ならばここに自分がいる。闇の輪郭に全て溶け出し、
消えていきそうなぐらいはかないものだが、確かに生きて存在している自分がいる。


 “無”でもない、“有”でもない、
強いて挙げれば“反生命”とでも言うべき空間なのかもしれない……。


 そう、そこは、全てを黒き静寂へと包み込み、“無”へと溶かす。
生き物が奏でる混沌の旋律は一つ、また一つと消えていく――。


 ポゥ――

 
 また一つ、光子が断末魔をあげる。


 この領域の魔の手にその存在を捕まれ、光子は脱することも能わず闇へと還る。


 果たして、この闇の重力圏から抜け出ることのできる存在などあるのだろうか?


 ――いや、在る。


 自ら発した問いに、即座に反駁する内からの声。


 それが、その存在の結論だった。


 例え限りなくゼロに近しいほんのわずかの数でしかなかったとしても、
その領域から抜け出るモノは確実に存在していた。
この短い時間の中でも、確実にその気配は捉えている。


 それに、何よりも自分の存在こそ反証だ――


 自負と共に、そう呟く。


 ただ独り、無謀にも闇と静寂と絶対的な死が支配するその領域に身を浸し、
そして今なお生命の輝きを失わないその存在。
だが全てを圧し潰す闇の絶対領域を前にして、流石にそれ以上踏み込んでいく勇気はない。


 それは理屈ではない。直観で分かるのだ。


 そこは、この世界の闇を司る“反存在”とも言えるモノどもの蠢く領域。
そこへと足を踏み入れてしまったら、もう二度と生きて光を目にすることはできないだろう……。


 アレが、開けてはならぬパンドラの箱の境界線――


 この《世界》から切り離された、別の事象を有する領域。


 ゾクリ――と背筋を戦慄(せんりつ)が駆け上る。


 その向こう――わずかに境界面から漏れ出た光が、命からがら逃げ出してくる。


 通常の世界では我が物顔に、まるでこの世の主のように振る舞っている存在であろうとも、
存在の基盤のそもそも異なるモノの領域にあっては、かくもみじめで弱々しい――



 光子の行方を目の端で追いながら、わずかに口角をつり上げる。


 そう、それは、ある種の真理だった。


 この《世界》を成り立たせている《神》の法則とでも言うべき絶対の真理――


 この世は全て多面的で多層的。或る処で見えていた《真実》も、
別の視点で切り取ってみると全然別のものへと変わる。
全てが多層的な意味を持ち、
それ自体多様な《世界》の中で同時に幾つもの可能性を持って共存する。


 ――だからこそ、どのような可能性を使うことができるかが何よりも重要なのだ。


 だが、その《真理》を知っているモノ自体、そう多くは存在しない。


 ましてや自ら可能性の軸を制御できる能力(チカラ)を有した存在など――


 瞬間、脳裏に浮かんだ神々しい《光》を纏(まと)ったその存在の姿に、
ギリリ――と知らず奥歯に力が籠もる。


 許すことはできない。あの存在だけは……。


 自らに都合良く《真理》をねじ曲げ、欺瞞(ぎまん)に満ちた《世界》をもたらした罪。
そして何より、そのために、大切な存在(ひと)を永劫の地獄へと追いやった……。


 それが例え《神》に刃向かう行為だとしても、必ずやその《存在》を消してみせる。


 そのために、その決意を新たにするために、この領域を訪れたのだ。


 この《世界》で唯一、かの《存在》の力の及ばぬ領域――
この世とは別の理(ことわり)が支配するという、パンドラの箱の向こうを見るために……。


 本当に、やれるのか……?


 心の裡(うち)で声がする。この《世界》の理を超えた《世界》の中身を垣間見ることなど……。


 我が《父》もまた、彼の《存在》と同じくこの《世》の理を超えた《存在》――
その血を引いた自分ならば……。



 それでも確率は五分と五分か……いや、もっとずっと分が悪い賭けかもしれない。


 だが――


 それでも、やらざるを得ない。


この《世界》の《神》とも言えるかの《存在》に対抗するためには、
この《世界》の理に縛られていてはいけないのだ。


 視点を、ずらすことが重要だ――


 それは、先程再確認した絶対の《真理》。
それを胸に、今まで踏み出すことのできなかった一歩を進む。




 そうしてその瞬間――




 闇の御子は事象の境界面を突破した。


(【楽園】1-1へ続く)


nnr.gif ネット小説ランキング>SF部門>遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~に投票

この章が気に入ったら上記「遥かなる星々の物語~ウェヌスの章~に投票」をクリックしてください♪


タグ:創作小説
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

【遙かなる星々の物語~テラの章~】【零――時の接合点――或いは無限】 [遙かなる星々の物語]


 ようやくここまできました~!!! いやあ、長かった長かった^^;
 この長い物語にここまでお付き合いいただきましてどうもありがとうございました。少しでも楽しんで頂けましたら幸いです♪
 なお、年明けから新章『遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~』の連載を始めようと思っていますので、楽しみにしていて下さい^^
 ここまで読んでいただいた皆様に感謝して・・・(-人-)

 本日は『遙かなる星々の物語~テラの章~ 完結編』より、【零――時の接合点――或いは無限】を公開します。とりあえず、ルビは()で後ろに付けてますが、読みづらいのはご容赦ください。



『遙かなる星々の物語~テラの章~』概要
この宇宙を遍く、様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。テラの章では舞台となる《楽園》を襲った悪魔族の死の行進により、心を閉ざした眠り姫(テリス:地球)と彼女を目覚めさせようとする騎士(ルネラナス:月)の物語を描いています。

※この物語は【楽園】【炎星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください


登場人物紹介】 外伝1「46億年前の奇跡
プロローグ/【楽園】1/【炎星】1-1/1-2/【地球】1-1/1-2/【楽園】2/【炎星】2-1/2-2/【地球】2-1/2-2/【楽園】3/【炎星】3-1/3-2/【地球】3-1/3-2/【楽園】4-1/4-2/【炎星】4-1/4-2/【地球】4-1/4-2/【楽園】5-1/5-2/【炎星】5-1/5-2/【地球】5-1/5-2/【楽園】6-1/6-2/【炎星】6-1/6-2/【地球】6-1/6-2/【楽園】7-1/7-2/【炎星】7-1/7-2/【地球】7-1/7-2/【楽園】8-1/8-2/【炎星】8-1/8-2/【地球】8-1/8-2/【楽園】9-1/9-2/【炎星】9-1/9-2/【地球】9-1/9-2/【楽園】10-1/10-2/【炎星】10-1/10-2/【地球】10-1/10-2/【楽園】11-1/11-2/【炎星】11-1/11-2/【地球】11-1/11-2/【楽園】12-1/12-2/【炎星】12-1/12-2/【地球】12-1/12-2/【楽園】13-1/13-2/【炎星】13-1/13-2/【地球】13-1/13-2/【太一】1/2/【零――時の接合点――或いは無限】
Next Story -> 【ウェヌスの章

【零――時の接合点――或いは無限】




無限大――




全てが分岐を続けていた。全てが無限に広がり続けていた。

天も、地も、流れる雲も、過ぎゆく刻も、

細分化し、どんどんと複雑化していく世界の中で、

全ては分離し続けていた。

そこは、あらゆる存在が歌いざわめく、完全なる有の世界。

無限にして更に増え続ける生命の世界。

そこには、全てのものが在った。

天も地も、澄んだ水も、瞬く星々も、

そこに息づく生命さえも、

全てが明確な形を与えられ、

更に複雑に進化していく。

全てが細分化して存在するからこそ、

総体でないと全てが存在しないとも言える。

単体で見れば刹那とも一瞬とも等しい、

朧気で儚いモノ。

そこには、かつての無の面影が在った。

蝕まれ、殺された無は、分解され、

それぞれの有の中に微かに、その痕跡を残す。

一つ集まり、二つ集まり、

二が四になり四が八になり八が十六になり

十六が三十二、三十二が六十四、六十四が百二十八、百二十八が二百五十六、

やがては無限大に集まって――




それは有から無へと転換する、刻と空間の接合点――




この世界のどこかで、また無が産まれ、息づき始めた。





(遙かなる星々の物語~テラの章~ Fin




nnr.gif ネット小説ランキング>SF部門>遙かなる星々の物語~テラの章~に投票

この章が気に入ったら上記「遥かなる星々の物語~テラの章~に投票」をクリックしてください♪
タグ:創作小説

【遙かなる星々の物語~テラの章~】【太一】2 [遙かなる星々の物語]


 本日2回目の更新です。戦いの結末、じっくりとお楽しみ下さい^^
 本日は『遙かなる星々の物語~テラの章~ 完結編』より、【太一】パートその2を公開します。とりあえず、ルビは()で後ろに付けてますが、読みづらいのはご容赦ください。



『遙かなる星々の物語~テラの章~』概要
この宇宙を遍く、様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。テラの章では舞台となる《楽園》を襲った悪魔族の死の行進により、心を閉ざした眠り姫(テリス:地球)と彼女を目覚めさせようとする騎士(ルネラナス:月)の物語を描いています。

※この物語は【楽園】【炎星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください


登場人物紹介】 外伝1「46億年前の奇跡
プロローグ/【楽園】1/【炎星】1-1/1-2/【地球】1-1/1-2/【楽園】2/【炎星】2-1/2-2/【地球】2-1/2-2/【楽園】3/【炎星】3-1/3-2/【地球】3-1/3-2/【楽園】4-1/4-2/【炎星】4-1/4-2/【地球】4-1/4-2/【楽園】5-1/5-2/【炎星】5-1/5-2/【地球】5-1/5-2/【楽園】6-1/6-2/【炎星】6-1/6-2/【地球】6-1/6-2/【楽園】7-1/7-2/【炎星】7-1/7-2/【地球】7-1/7-2/【楽園】8-1/8-2/【炎星】8-1/8-2/【地球】8-1/8-2/【楽園】9-1/9-2/【炎星】9-1/9-2/【地球】9-1/9-2/【楽園】10-1/10-2/【炎星】10-1/10-2/【地球】10-1/10-2/【楽園】11-1/11-2/【炎星】11-1/11-2/【地球】11-1/11-2/【楽園】12-1/12-2/【炎星】12-1/12-2/【地球】12-1/12-2/【楽園】13-1/13-2/【炎星】13-1/13-2/【地球】13-1/13-2/【太一】1/2/【零――時の接合点――或いは無限】
Next Story -> 【ウェヌスの章

【太一】2

『どうした? 話が違うじゃないか、テリス』

 強烈な思念が、歩を進める少女の脳裏に焼き付いてくる。

『ボクに隠して《蒼天の女神(マルソー)》の欠片を復活させ、そして今また、あの大破壊(オーバードライブ)の中で滅ぼすはずだったルネラナスを、何故か引き連れてここにいる――』

 この不完全な《世界》を産み出し、滅びへと向かわせてしまっている己の罪を精算し、全てに決着を付ける覚悟ではなかったのか?

 闇の御子(アシュタロス)は滾る感情をギリリと抑え、この《世界》の中で圧倒的な存在感を見せつける少女(テリス)に向かい、ドスのきいた《声》を投げる。

『ええ……そう。わたしも、はじめはそのつもりだった。あなたにこの計画を持ちかけ、取引を行った当時の心は、偽りもなくそのつもりだった――』

 少女は、少し目を伏せ、己を恥じるかのように述懐する。

『でも、それは間違いだった。それはわたしの独りよがりの……勝手な解決策にすぎなかった。わたしはこの《世界(こ)》のためと考えて、わたしのために戦い続けるルネのためだと考えて、幸せを掴むはずだった妹(マルソー)のためだと考えて、そのことを決心したはずだった。これは、あなたのせいにするつもりもない。間違いなくわたしが自分で決めたこと。でも……でもね……それは全部、わたし一人のことしか見ていなかった。わたしの見た《世界》に、わたしの見たルネに、わたしの見たマルソーに、わたしの見たあなた……この中の誰かにでも、わたしはその本当の《想い》を確かめたことがあったかしら。わたしは自分の《想い》を問いかけたことがあったかしら。全ては、わたしという自己(せかい)の中で、わたしだけの相互作用で創りあげた幻想の風景――笑ってもいいわ。わたしは勝手に、自分こそが全ての元凶だと思い込んでしまっていた。この《世界(こ)》の存在が勝手に醜く不幸だと思い込み、そのように産んでしまった自分を、そのように育ててしまった自分を、ずっと、ずっと責めていた。この《世界(こ)》の《声》に、耳を傾けることもしないで……この《世界》の中で生きる生命(いのち)を、見つめようともしないままに……』

 悲しげに、未だ二重写しの様相を呈す、風景を見渡す少女(テリス)。

『可哀想に……わたしの《世界(こ)》。わたしがしっかりとしていなかったばっかりに、わたしの心が弱く、現実を受け止められなかったばっかりに……こんなにも、傷を付けてしまった。あなたは常に精一杯、わたしの愛情を求めて生きていたというのに――』

 少女が手を差し伸べた草叢(くさむら)が、次第に朧になり、コンクリートの建物へと戻っていく。

『わたしがいかに現実を見ようとせずに、自分の幻想の中に閉じ籠もってしまっていたか……わたしはそれを、この《世界》に生きる人間たちに教えられた。ここにいる彼らをはじめとした、この《世界》に生きる数限りない生命に……おかしいわね。わたしは人類を……わたしの歪んだ精神の発露たる人類を……この世界に仇なす存在として、この世界を食い潰し自壊する存在として、生命の道理を歪めて存在させてしまったのだと思い込み、彼らを滅ぼそうとまでしたというのに……。でも、本当に不自然なのはわたしの方だった。いつまでも自分自身の問題の中にのみ閉じ籠もり、必死になって支えてくれる人たちを、必死になって生きている存在を、見ようとしていなかったわたし。そんなわたしの不完全さが、この《世界》をこんなにも傷付け、取り返しのつかない事態を引き起こしかけたのよ』

 わたしは、ようやくその事に気付いたの――。

 少女(テリス)は闇の御子(アシュタロス)に向かい、強く《意志》を放つ。

『不完全なままでもいい。不完全なことが悪いわけじゃない。完全なものなど、この世には存在していないのだから。大切なのは、お互いの不完全さをすり合わせ、より良くしていこうと努力を続ける心。自分の不完全さを認識し、相手の不完全さを許す包容力。何よりも、自分自身の殻を打ち破り、本当の相手を見つめる勇気――それらが今までのわたしには、圧倒的に足りていなかった……』

 だから、わたしはわたしの事をこんなにも大切に想ってくれている存在に、気付くことができなかった。自分の心を、見せることができなかった。相手の心を自分の尺度で推し量って、その物差しを広げることができなかった。それが、これほど永い永い刻を、彼を苦しめ続けてきてしまった全ての元凶――

『クッ……クク……だけど……本当にそうかい? 今、そう思っていることだってまた、自分よがりの勝手な思い込みにすぎないものかもしれない。考えてもみろ。このまま修正した全てをなくし、現実を元に戻してしまったら、キミの大事な《蒼天の女神(マルソー)》は消えてしまうんだ。それが、果たして正しいことなのかい? キミはまた、思い違いをしているのかもしれない……』

 その心が本当のものだと、何故言えるんだ? テリス。

 闇の御子(アシュタロス)から投げられる、単純だが恐ろしい、迷いの風。

『そうね、思い違いかもしれない。思い違いでないなんて誰にも言えない。でも……でもね……今、一つだけ確かなことはある。少なくとも、この《世界》の歴史に介入するわたしの行為は、本来在ってはいけない、不自然なものだから――』

 それを修正することは、ためらってはいけないこと。

 少女(テリス)はそっと、朔夜を伴って背後に立つ、己の《魂の半身》の姿を見る。少女(テリス)の視線に気付いたのか、そっと、頷き返す陽子(マルソー)。思えば、全てはそこから始まった。引き裂かれた彼女(マルソー)の姿が、壊された《宿す者》の幸福が……己自身を喪うよりも辛く、あり得てはいけない現実だと、直視できなかったところから……。

 ごめんなさい。結局、あなたを幸福にすることはできなかったわ――

 それは、彼女たちに届いたなら、おそらく即座に否定されたであろう《想い》。少なくとも双生の騎士は、例え一瞬であったとしても再び愛しい彼女の存在を胸に感じ、本来遙か《楽園(エデン)》で命運尽き果てていたはずの《蒼天の女神(マルソー)》もまた、この《世界》の中で永い永い刻を過ごし、最後に、魂の片割れの立ち直る姿をこの目で見られた。これを幸福と言わずしてなんであろう。これを、幸せと言わずして何と言うのであろう――。

『思い違いであったら正せばいい。必要なだけ、必要な時間互いの《想い》を伝えあって、間違っていると認識したなら直せばいい。それだけの未来(じかん)は……まだたくさんあるのだから。ここで全てに白黒をつけなくてはいけないわけではないのだから……』

 共に手を取り合って、必要な対話を行っていこう――そう、彼も言ってくれたから。

 少女(テリス)は、両手を目の前に組んで祈りのポーズを捧げる。

『――ッ! なんだそれは。白黒を付けないって、もしや、それは余裕の現れかい? 例え今ここでボクを取り逃がそうとも、ボクの存在など、この《世界》の存亡にはなんら影響を与えないという……』

 それこそ、思い上がりもはなはだしい!!

 闇の御子(アシュタロス)は、燃える瞳で少女に向かって黒炎の雨を降らす。

『いや、そうは言ってないさ、アシュタロス』

 だがその黒炎は、少女(テリス)の前へと進み出た、蒼地の騎士(ルネラナス)によって宙へと消える。

『少なくとも、今のこの状況の幕引きのために、お前との戦いの決着をつけることは必要だ。永い永い刻をかけ、女神の《心》とこの《世界》を巡って戦ってきた、お前との戦いの決着は、な。存分にやろうじゃないか。この、呪われた宿命の対決の勝者がどちらになるのか……どちらが再び、少女(テリス)の心を手に入れられるのか……』

 二度とこの《世界》に手出しをできないように、その存在から、跡形もなく消してやる――

 そして、再び永い永い、因縁を巡る対決が始まった。





眠り姫は夢を見る

ただどこまでも己と同じ、

不完全な世界の夢を――

眠り姫は夢を見る

偽りの《楽園》を模した、

滅びへ向かう世界の夢を――




だが今や、

茨の中の微睡みから

眠り姫は目を覚ます

どんな不完全さも全て呑み込み

支え共に歩む人のいる現実に――




目を開けて、愛する人の手を握る。

陽光の中、強く美しく成長し、

自らの足で、茨の中から抜け出して――




『おはよう。これから、二人で創っていこう……

君と僕……そしてあの《世界》の未来の刻を……』




それは、《楽園》の中にもたらされた一つの奇跡

少女と騎士の世界を巡る、ある一つの物語――。




(【零――時の接合点――或いは無限】へ続く)




nnr.gif ネット小説ランキング>SF部門>遙かなる星々の物語~テラの章~に投票

この章が気に入ったら上記「遥かなる星々の物語~テラの章~に投票」をクリックしてください♪
タグ:創作小説

【遙かなる星々の物語~テラの章~】【太一】1 [遙かなる星々の物語]


 いよいよ最終章。ここまできたらもうあれこれ言う言葉はありません。最後の戦い、じっくりと味わって下さい!
 ラストですので、本日はエピローグまで連続配信いたします。13:00、16:00を続きをそれぞれ投稿いたしますので、お楽しみに!!!
 本日は『遙かなる星々の物語~テラの章~ 完結編』より、【太一】パートその1を公開します。とりあえず、ルビは()で後ろに付けてますが、読みづらいのはご容赦ください。



『遙かなる星々の物語~テラの章~』概要
この宇宙を遍く、様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。テラの章では舞台となる《楽園》を襲った悪魔族の死の行進により、心を閉ざした眠り姫(テリス:地球)と彼女を目覚めさせようとする騎士(ルネラナス:月)の物語を描いています。

※この物語は【楽園】【炎星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください


登場人物紹介】 外伝1「46億年前の奇跡
プロローグ/【楽園】1/【炎星】1-1/1-2/【地球】1-1/1-2/【楽園】2/【炎星】2-1/2-2/【地球】2-1/2-2/【楽園】3/【炎星】3-1/3-2/【地球】3-1/3-2/【楽園】4-1/4-2/【炎星】4-1/4-2/【地球】4-1/4-2/【楽園】5-1/5-2/【炎星】5-1/5-2/【地球】5-1/5-2/【楽園】6-1/6-2/【炎星】6-1/6-2/【地球】6-1/6-2/【楽園】7-1/7-2/【炎星】7-1/7-2/【地球】7-1/7-2/【楽園】8-1/8-2/【炎星】8-1/8-2/【地球】8-1/8-2/【楽園】9-1/9-2/【炎星】9-1/9-2/【地球】9-1/9-2/【楽園】10-1/10-2/【炎星】10-1/10-2/【地球】10-1/10-2/【楽園】11-1/11-2/【炎星】11-1/11-2/【地球】11-1/11-2/【楽園】12-1/12-2/【炎星】12-1/12-2/【地球】12-1/12-2/【楽園】13-1/13-2/【炎星】13-1/13-2/【地球】13-1/13-2/【太一】1/2/【零――時の接合点――或いは無限】
Next Story -> 【ウェヌスの章

【太一】1

「全く、いくら何でも無謀すぎる! もう口を開くのもやっとだっていうそんな状態で、いったい君に何ができるって言うんだ!」

「うっせェ、今、この瞬間にも闇の御子(アシュタロス)の魔の手がテリス様とルネを押し潰そうとしているんだ。このまんま、手をこまねいて見ていられるかっていうんだよ!」

「だからって、出来ることと出来ない事があるだろう? 勇気と蛮勇は違うんだ。逆に僕たちがルネの足手まといとなってしまったら、それこそ元も子もないだろう?」

 だから、彼らを助けに行くなどと無謀な事は言わず、大人しく自分の身体を回復させるのが先決だ――。

 そう、蒼の騎士(ダイモス)は内心、赤の騎士(フォボス)に負けず劣らず逸(はや)り、いきり立たんとする己の心に釘をさす。

 何しろ彼らの今の状態ときたら、全身の三十パーセントを超す大火傷の水膨れも生々しく、その上先の攻撃で受けた傷によってじくじくと体液が滲み、刻一刻と血や体力を消耗する。癒しの力を持つ女神達の手当によってもすぐにはふさがらない深い傷。完全に機能が削がれてはいないものの、内臓や骨などもやられているのだろう、少し身じろぎをするだけでも全身に激痛が走っていく。

 そう、まさに瀕死だとか満身創痍だとかいう言葉が相応しい状態だったのだ。

 だというのに――

「それくらい……」

 引き止めるために伸ばした腕の先、押し殺した声が漏れる。

「それくらい、オレだって分かっている! 自分の身体の状態なんか、誰よりも良く知っているんだ!! でも……だからって……このまま何もせずに休んでいろとでも言うのか? むざむざ何もせずに、ルネやテリス様が殺られるのを指をくわえて見ていろとでも言うのか?!」

 あくまでも真っ直ぐな赤の騎士(フォボス)は、身体の痛みなど気合で無視し、己の感情のおもむくまま、唾を飛ばして猛り、叫ぶ。

「……気持ちは分かるけど、少しばかり落ち着いたら、フォボス。闇の御子の相手は僕たちなんかじゃない。あのルネだ。僕たちよりも遙かに大きな力を持ち、誰よりもテリス様のことを大事に想っているあのルネなんだよ。闇の御子が何を言おうと、僕たちは彼の勝利を信じるべきじゃないのかい? それが、真実の戦友(とも)ってもんだろう?」

 相棒が猛っているからこそ、自分はその分冷静に――

 蒼の騎士(ダイモス)は己の感情を押し殺し、静かに含めるかのようにそう告げる。

「それに忘れたのかい? 今……あの《世界》に存在する僕たちの相似体は、まだほんの赤ん坊なんだってこと。例え僕たちが万全の状態であったとしても、あの《世界》で僕たちに出来ることなんてたかが知れているんだよ。ただでさえそうなんだから、今のこんな状態で、ルネの足を引っ張らないことなどあり得ると思うのかい?」

「分かってる! それは十分分かってンだよ!! でも……」

 それでも、精神(アストラル)の戦いであれば、その未熟な身体であっても少しは《力》を振るうことができるはず――

 そう続けようとした赤の騎士(フォボス)の言葉を、蒼の騎士(ダイモス)はそっと押し止めた。

「そう――それが分かっているんなら、フォボス」

 相棒は、滾(たぎ)る想いを心の奥底に押し隠し、燃えるような赤の騎士(フォボス)の瞳を覗き込む。

「辛いだろうけど、機を待つんだ。こんな状態の僕たちが、彼らにしてあげられることはもはや少ない。おそらく、僕たちに与えられるのはたった一回のチャンスのみ。この好機が訪れるまで、じっと耐えて耐え抜いて、その一度に今の《想い》も持てる《力》も全てぶつける覚悟がもし君にあるのだったら――」

『例えどれほど無謀だろうと、僕も、キミと共にこの生命(いのち)をかけて戦おう』

 ニヤリ――そう言うと、蒼の騎士(ダイモス)は悪戯っぽく笑った。




◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇




 ブワッ――――――ッッ!!

 その瞬間、二重写しの現実に初めに広がったのは、まるで波紋のように幾重にも重なる空気の流れ。続いて、燃えるような熱気と共に、飛鳥から放たれた黒炎が、天空から落ちる槍のように、次々と陽子たちへと降り注ぐ。

「ぐっ――!」

 陽子は、両手を上空へと広げ、その炎の雨から皆を護ろうと意志を集める。陽子たちを取り囲んだ信者たちの更に外側から広がる半円のドーム。陽子の思い描いたそのイメージは、精神界(アストラル)の光媒質(エーテル)を伝播して物質界へと作用し、数多ある粒子を動かして、瞬間、空気の壁を形づくる。

「やはり、君も我々と同じ、創星界(エデン)の存在をその身に宿しているようだな――」

 全ての火炎を間一髪、禦(ふせ)がれる格好となった飛鳥が、目を細めて陽子を見る。あまりの衝撃に蒼白になっていながらも、その顔に強い決意を湛え、飛鳥の視線を陽子は真っ向から受け止める。

 ぞくり――

 陽子はその瞬間、強い危機感を覚えて後退った。何かとてもおぞましい視線(モノ)が、真っ赤に燃える陽子の瞳と、前に一房ある赤い髪を撫でていったような気がしたのだ。

『そうか……クク、そうだね、その赤い目、赤い髪! 思えば、いつも《彼女(テリス)》の近くには、キミのような赤い赤い髪を持つ存在が在った。この《世界》へ住まう癖に、まるでボクたちの世界の住人であるかのように強大で、侮れない力を持った存在が――』

 飛鳥の口を借り、陽子の裡へと潜む存在へ、悪魔(アシュタロス)が語りかけてくる。

『そうだよね? 覚えているよ。真紅の皇姫。だがキミは、一万五千年前のあの大破壊で、輪廻の環から外れたはず――と……ククク……そうか……そういうことか。ボクとしたことが、彼女にまんまと一杯を食わされたよ』

 大悪魔(アシュタロス)は身体をくの字にしてひとしきり可笑しそうに笑うと、灼け付く炎を湛えた目で、陽子の内部を凝視する。

『そう、キミはいつだって、《彼女》と共に存在した。それは単に《彼女》が求める《聖太母(ソリス)》のような存在としてキミを形作ったのかと思っていたが……そう、ではなかったんだな』

 ぞくぞくと、陽子の存在を舐めていく大悪魔(アシュタロス)の犯すような視線。

『ずっとその真紅の外見に惑わされていた。そのような存在は、《彼女》の周囲にはいなかったはずだから――でも、《彼女》が、この《世界》のはじめから大切に育み、己の存在と引き替えにしても復活させたいと願う相手であれば、一人、思い当たる節があるよ』

 ねえ、蒼天の女神(マルソー)――歌うように大悪魔は言う。

『ホント、やられたね。《彼女》はこの《世界》の歴史を改変する際に、一つ仕掛けを施した。自分の身代わりにこの《世界》を見守る存在を、密かに復活させるという仕掛けを――』

 つまり――無血でこのボクに《世界》を引き渡す気はハナからなかったということだ。

 飛鳥を覆うどす黒いオーラが、その瞬間、より禍々しく吹き上がる。

『それだけ――』

 その恐るべき重圧(プレッシャー)を己が精神力のみで軽減し、和美たち《世界(テラ)》の住人を護る陽子は、頼りない少女(テリス)の姿を思い浮かべながら、その心の裡を語り、伝える。

『それだけ、《彼女》にとって、この《世界》は大事なんだってこと。例え自らの手は離しても、例えあなたという存在にその《能力(チカラ)》を引き渡すことになったとしても、無意識に、その行く末を案じ健全な発達を願ってしまうぐらいに。そう、それ程までに、彼女は本来大人しく心優しい、性根の清らかな女神なのよ。今回は不幸にも、その能力(チカラ)の発現から道を誤り、本来あるはずのない醜く歪んだ《世界》が生じることになってしまったけど……それでも……そう、それでもその《世界(こ)》は姉様にとって身代わりなど存在しない、かけがえのない、唯一絶対の――愛するべき存在なんだから!』

 つまらない奸計でもって、姉様からかけがえのないその《世界(こ)》を奪おうとする貴女は、どれほど醜く、残酷な行為に自分が手を染めているか、一度、自分の胸に手を当てて考えなさい――

 固く封をかけて奥底にしまわれた姉様の本当の心、何も言わない姉様に代わって、せめて……せめて私が思い知らせてあげるわ闇の御子(アシュタロス)!

 そうして、陽子は己が消滅する覚悟でもって、強大な悪魔に立ち向かっていった。




◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇




 その瞬間、まるで世界は一気にその密度を高め、重厚な空気が辺りを支配したかのように感じられた。

「朔夜――っ!」

 作人は、まるで空中からはじき出されたかのように何もない空間から唐突に出現した朔夜を、地面すれすれ、その両の腕で抱きとめる。全ての力を使い果たしたかのようにぐったりと、作人の腕の中で薄く息をする彼女は、白い顔を病的なまでに青白くしながら、覗き込む作人に向かい、精一杯の笑顔を向ける。

「ありがとう……望月さん。《彼女》は……《彼》は……?」

 ちゃんと、在るべきところに戻ってきている?

 作人は朔夜の声にならない声に対し、頷き、励ます。

「ああ、大丈夫だ。君が呼び戻してくれたおかげで、《彼》は、ちゃんと俺の中に……そして《彼女》は――」

 作人が視線を向けた先、そこには恐ろしいまでの存在感で周囲にひずみを生じさせながら、一歩一歩飛鳥へ向かって歩を進める少女の姿があった。

「なに、これ……」

 眩しい――

 この世のものとは思えない光に、薄く目を細めた和美が茫然と呟く。

 この《世界》には有り得なかったはずの本来の身体で意識を取り戻したその存在は、おそらく、その加護を得ていない存在にとってはただの光にしか見えないのだろう。作人と朔夜、陽子、そして飛鳥を除き、その場で五体満足な者は皆、少女から目をそむけ、あるいは眩しそうに手をかざす。

「陽子……和美……良かった……みんな無事で……」

 全身黒く煤け、所々に裂傷や炎症を負った姿ではあるが、己の足で地面に立ち、意識もしっかりと保っている親友達を見て、朔夜がほっと安堵の息を吐く。精神界(アストラル)にいながら、常に見え、繋がっていたこの《現実(セカイ)》――陽子や和美の魂の叫び、その《想い》、そして彼女らが何を考え、どのようにして神とも言える強大な存在に、敵わぬのを承知で戦いを挑んでいったか、全ては分からぬまでも常にその動向は掴んでいた。それ故、朔夜は自分が間に合ったことに……彼女たちに犠牲が出る前にこの《世界》へ彼(か)の存在たちを呼び戻せたことに……心から安堵を覚える。

『へへ……護ってやったぜ』

『本当は君の戦いを援護するつもりだったんだけどね、ルネラナス。でもこんな、僕らもまさか逢えるとは思ってなかった《彼女》の存在(すがた)を見かけてしまうと――』

 思わず、手を出さないわけにはいかなかったよ……。

 精も根も尽き果てた感じにへたり込んだ陽子の両脇に、ちょこんと控えていた勇代と雅代が、作人に向かって満足そうに頷く。

 作人の胸にじんわりと、温かな喜びが伝わってくる。それは、遙かな過去、既に喪ってしまったとばかり思っていた愛しい存在に、今一度、出会えた喜び。例え一時のまやかしにすぎないとしても、その奇跡に感謝する戦友(とも)の心だった。

『あとは……君の仕事だ、ルネ。僕たちに奇跡をくれたあのお姫様を――生命(いのち)よりも大切な君の女神を、闇の御子(アシュタロス)の紡いだ邪悪な糸から救い出してあげてくれ。《彼女》の心を、今度こそ救ってあげてくれ』

『いくら満身創痍のオレらだって、ここにいる奴らを護っているぐらいは出来るからよぉ――』

 安心して、背を任せて行ってこい!

 力強い戦友(とも)の《声》に背を押され、一歩、少女(テリス)と飛鳥(アシュタロス)に向かい、足を踏み出す作人(ルネラナス)。

『例え、どのような結果になったとしても、私は……私たちは、あなたとテリスの出した結論に従うから――』

 《彼女》を……誰よりも可哀想な姉様をこの狂った運命から救い出して――

 向こうでは、少女が心を決めかかっているのだろう。既に、その存在も朧となってきた蒼天の女神(マルソー)の、偽らざる《想い》が作人の背に降り注ぐ。だがそれはすぐに強烈な願いとなって、戦場となった《世界》の中を、瞬く間に広まっていった。




◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

(【太一】2へ続く)




nnr.gif ネット小説ランキング>SF部門>遙かなる星々の物語~テラの章~に投票

この章が気に入ったら上記「遥かなる星々の物語~テラの章~に投票」をクリックしてください♪
タグ:創作小説

【遙かなる星々の物語~テラの章~】【地球】13-2 [遙かなる星々の物語]


 いよいよ通常パートの最終回。アストラルを部隊にしたせめぎ合いに決着が付きます。
 女神の絶望は癒せたのか、歪んだ運命は修正出来たのか、テリスは、ルネは、朔夜は、作人は・・・
 絡み合う運命をお楽しみ下さい^^
 本日は『遙かなる星々の物語~テラの章~ 完結編』より、【地球】パートの第十三章パート2を公開します。とりあえず、ルビは()で後ろに付けてますが、読みづらいのはご容赦ください。



『遙かなる星々の物語~テラの章~』概要
この宇宙を遍く、様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。テラの章では舞台となる《楽園》を襲った悪魔族の死の行進により、心を閉ざした眠り姫(テリス:地球)と彼女を目覚めさせようとする騎士(ルネラナス:月)の物語を描いています。

※この物語は【楽園】【炎星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください


登場人物紹介】 外伝1「46億年前の奇跡
プロローグ/【楽園】1/【炎星】1-1/1-2/【地球】1-1/1-2/【楽園】2/【炎星】2-1/2-2/【地球】2-1/2-2/【楽園】3/【炎星】3-1/3-2/【地球】3-1/3-2/【楽園】4-1/4-2/【炎星】4-1/4-2/【地球】4-1/4-2/【楽園】5-1/5-2/【炎星】5-1/5-2/【地球】5-1/5-2/【楽園】6-1/6-2/【炎星】6-1/6-2/【地球】6-1/6-2/【楽園】7-1/7-2/【炎星】7-1/7-2/【地球】7-1/7-2/【楽園】8-1/8-2/【炎星】8-1/8-2/【地球】8-1/8-2/【楽園】9-1/9-2/【炎星】9-1/9-2/【地球】9-1/9-2/【楽園】10-1/10-2/【炎星】10-1/10-2/【地球】10-1/10-2/【楽園】11-1/11-2/【炎星】11-1/11-2/【地球】11-1/11-2/【楽園】12-1/12-2/【炎星】12-1/12-2/【地球】12-1/12-2/【楽園】13-1/13-2/【炎星】13-1/13-2/【地球】13-1/13-2/【太一】1/2/【零――時の接合点――或いは無限】
Next Story -> 【ウェヌスの章

【地球】13-2

 いくら相手を大切に想おうと、いくら相手のことを愛し、幸せにしてあげたいと願おうと、それは相手にきちんと届いていなければ意味がない。相手が思う強さで、相手が思うタイミングで、相手の心へときちんと届かなければ意味がないのだ。本当に相手と幸せになりたいと思うなら――相手を幸せにしたいというだけではなく、相手との幸せを願うのであれば、それは数多ある無償の愛と同じであってはいけない。一方向の、見返りを考えない包み込むような愛のままであってはいけない。伝え、対話し、己の持つ幻想を打ち破り、時には自らの持つ《想い》に大きくブレーキをかけたとしても、一人一人の持つ愛を二人で育てる愛へと変えていかなければならないのだ。相手の幸せを願うのであれば、その分、自分の心を守る幻想というバリアを打ち破っていかなければならないのだ。

 それは、時に身を斬るように辛く、苦しい作業ではあるけれど、本当に相手の幸せを……そして己の幸せを、もたらすためにはどうしても必要なこと……。

 それが今の《彼》……ひいては今の《彼女》に、圧倒的に足りないもの。しかも、二人とも己に、そして相手に視野狭窄(しやきょうさく)を起こしすぎ、その事に全く気付いていない。それが……それこそが、この狂った運命をもたらしてしまった原因にある。二人の永いすれ違いの歴史にある。

 その事に、作人は気付いてしまっていた。そして作人と同じく永い刻(とき)を内見し、今、目の前の運命に必死になって抗おうとしている、か弱く心優しいあの女性もまた……。

 いや、「か弱い」とか「心優しい」などというのも、作人がその印象から勝手に作り上げた、幻想と言ってもいいのかもしれない。これまでの〝彼女〟の記憶から導き出した、こうあって欲しいという勝手な願いなのかもしれない。これまでの彼女がどうであれ、作人は今好きになった――そして今まさに救いたいと思っている彼女のことは、全くといっていいほど知らないままなのだから……。

『ほら、聞こえるでしょう? 彼の……《声》が――』

 今にも力尽きそうなくらい、存在が朧になってきた朔夜の、祈りのような《声》が聴こえる。

 伝えよう、自分の想いを。ぶつけよう、自分の精一杯の行動を。例えこの先、どのように変容していくことになったとしても、まさに今、自分が彼女を想い、彼女と今生で幸せになりたいと思っているのは疑いようのない事実なのだから。この《世界》の命運の行方にも負けないくらい、その心に触れたいと思っているのは確かなのだから。

 彼女の心を知るために、彼女と真の対話を行うために、作人が今、やるべき行動はたった一つ――

『ルネラナス……戻ってこい! このまま《彼女》を苦しみの只中に置き去りにすることなど、お前には絶対出来ないはずだ!!』

 作人は朔夜が背負っている苦しみに、その必死な《想い》に自らの《想い》を重ね、彼女が己の存在を磨り減らしながらも保ち続ける接続を――制御し続けている《D》の能力(チカラ)を、己が精神の力でもって制御しようと試みる。

 突如、のしかかってくる凄まじい激痛――

 この世のものとは思えない万力のような意識への締め付けと、徐々に分解され消え頼りなくなっていく己が存在への恐怖心に、作人は朔夜が見かけの頼りなさとは裏腹に、遙かにタフで強靱な精神力を有していることを知って、驚嘆する。この女性はこれほどまでの苦痛の中にいながらも……これほどまでの恐ろしさの只中にいながらも、自分と共にあった少女のために必死に、より良い道を模索していく強さを持っている人なのだ。そんな心を、内に秘めている人なのだ。

 それは作人を何重にも覆っていた幻想の鱗が、一枚、ゆっくりと剥がれ落ちた瞬間。

 己にのしかかる重圧が、急に減じたことに気付いたのだろう。朔夜が、己に寄り添う作人の存在を見、そして、ゆっくりと、強張った表情を動かしてにっこりと笑いかける。

 ドキリ――

 それは泣き笑いのような、苦しげであまり上手くはない笑顔だったが、確かに作人に何かを伝えてきた。その存在を認識し、今この場で助力をしてくれた行為に対し、伝えきれない感謝の意を込めてあった。

 一人で背負っているその苦しみを、他にも肩代わりできる人はいる。一人では力が及ばないかもしれなかったことも、二人であればきっと届く――。

 作人もその、言葉にならない朔夜の想いに、全身全霊をかけてまた応える。

 だから二人で、この宿命の決着を付けよう。すれ違い続ける悲しい二人の、背中を少し押してあげよう――

 そう、込めた想いが果たして朔夜には伝わったのかどうなのか――

『今の貴女のように……そうやって自分勝手に相手の気持ちを推し量って……自分勝手に判断して……それで相手のことをきちんと考えているなんて思うのは、幻想以外の何ものでもない……。長い間この《世界》を見てきた貴女なら……そういった独りよがりのすれ違いが原因で、一体どれだけの悲劇が起こってきたか……分からないわけじゃないでしょう……? ほんの少し、相手の真意を確認する労を惜しんだ結果……真実との間にできてしまう途方もない大きな溝を……知らないわけじゃないでしょう……? 貴女は……貴女はこの星を……この《地球(テラ)》を司る神なのかもしれないけど……そんな基本的で大切なことをまったくもって分かってない! 貴女がそんなだから……この《世界》も……私たちも……こんなにも歪んで……こんなにも苦しまなくてはならないのよ……己の罪の責任をとると言うのなら……逃げずに罪と向き合うというのなら……貴女はまだ、やらなければいけない事があるでしょう?!』

 それは朔夜と――作人の想い。乳白色の霧に包まれた精神界(アストラル)の空間の中を、満身創痍の朔夜の《声》が木霊する。

 その、生命を燃やし尽くすかのような必死の叫びは……互いに支え合う作人と朔夜のその姿は、果たして何か少女を揺り動かすものがあったのだろうか。おずおずと、躊躇(とまど)いがちに、固く結んだ己の口を、少女が逡巡しながらも開いていく。

『わたしは……』

 震える唇から紡ぎ出される、弱く頼りなげなか細い《声》。

 それは今まで少女が見せていた、この《世界》のため非情にならんとする冷徹な仮面をはぎ取り、弱く脆い一人の傷ついた少女の心をただ表す。愛しい人にしがみついてしまってもいいものかどうか逡巡する、一人の少女の本当の姿を――

 そして、その心は遙かな過去へと幽閉された、《彼》にもまた分かったのだろう。

『テリス……俺は……俺は何よりも君を救いたい。君の前に行って、君の顔を見て、そして君に伝えたいことがたくさんある。君と話したいことがたくさんある。この世界で一度は死を覚悟した命だが、君が望まぬままに俺を消そうとしているのなら、ここでこのまま消えたくはない。君を、このまま残していきたくはない! もし……もしも、君にも俺と同じ、悔恨という気持ちがほんの少しでもあるのなら……やり残したことがまだあると感じるのなら……俺を呼んでくれ、テリス! そして、力を合わせて互いの笑顔を取り戻そう! あの、幸せだった《楽園》の日々のように!!』

 分厚い時粒子(クロノトロン)の壁を貫き、強い強い青年の叫びが、作人の精神を伝って届けられる。それは、何よりも迷い揺らいでいる少女の心に強い共振を引き起こし、少女の瞳から一筋の涙をこぼさせる。

『ル……ネ……』

 少女の唇から漏れ出でる、細く微かなその呟き。

 それが精神界(アストラル)の空間に波紋となって拡がった瞬間――




 突如沸き上がった激流の如きエネルギーの奔流に押し流され、作人たちは精神界(アストラル)から現実の中へとはじき出されていた。

(【太一】1へ続く)




nnr.gif ネット小説ランキング>SF部門>遙かなる星々の物語~テラの章~に投票

この章が気に入ったら上記「遥かなる星々の物語~テラの章~に投票」をクリックしてください♪
タグ:創作小説

【遙かなる星々の物語~テラの章~】【地球】13-1 [遙かなる星々の物語]


 クライマックスの最中だというのに、またまた穴を空けてしましましたorz
 本当に、ほんっっっとうに申し訳ありません!
 なんとか年内に連載を終わらせるべく頑張りますので、もう少し生暖かい目で見守っていただけますと幸いです。
 本日は『遙かなる星々の物語~テラの章~ 完結編』より、【地球】パートの第十三章パート1を公開します。とりあえず、ルビは()で後ろに付けてますが、読みづらいのはご容赦ください。



『遙かなる星々の物語~テラの章~』概要
この宇宙を遍く、様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。テラの章では舞台となる《楽園》を襲った悪魔族の死の行進により、心を閉ざした眠り姫(テリス:地球)と彼女を目覚めさせようとする騎士(ルネラナス:月)の物語を描いています。

※この物語は【楽園】【炎星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください


登場人物紹介】 外伝1「46億年前の奇跡
プロローグ/【楽園】1/【炎星】1-1/1-2/【地球】1-1/1-2/【楽園】2/【炎星】2-1/2-2/【地球】2-1/2-2/【楽園】3/【炎星】3-1/3-2/【地球】3-1/3-2/【楽園】4-1/4-2/【炎星】4-1/4-2/【地球】4-1/4-2/【楽園】5-1/5-2/【炎星】5-1/5-2/【地球】5-1/5-2/【楽園】6-1/6-2/【炎星】6-1/6-2/【地球】6-1/6-2/【楽園】7-1/7-2/【炎星】7-1/7-2/【地球】7-1/7-2/【楽園】8-1/8-2/【炎星】8-1/8-2/【地球】8-1/8-2/【楽園】9-1/9-2/【炎星】9-1/9-2/【地球】9-1/9-2/【楽園】10-1/10-2/【炎星】10-1/10-2/【地球】10-1/10-2/【楽園】11-1/11-2/【炎星】11-1/11-2/【地球】11-1/11-2/【楽園】12-1/12-2/【炎星】12-1/12-2/【地球】12-1/12-2/【楽園】13-1/13-2/【炎星】13-1/13-2/【地球】13-1/13-2/【太一】1/2/【零――時の接合点――或いは無限】
Next Story -> 【ウェヌスの章

【地球】13-1

 引かれる――強く、引っ張られる――

 飛鳥の言葉へ反論するため、心の奥底から強く創星界の騎士(ルネラナス)の存在を求めた作人はその瞬間、己の存在が強く中空へと引っ張られる力を感じていた。意識のぶれが大きくなり、己の存在が肉体のくびきを離れて浮遊するかのようなその感覚。曖昧に、朧となる己の肉体の境界を越えた瞬間、作人は自分が見慣れぬ乳白色の霧に包まれた場所にいるのを認識していた。

 ルネラナス――

 微かに、彼の存在の気配を感じる。だが、遠い。今にも途切れそうなぐらいほんの微かなその気配。作人は精神を集中して、気を抜くと朧に消えてしまいそうなその存在への接続を保とうと試みる。

 それは作人から細く、微かに繋がった精神の糸。彼の存在(オリジナル)と相似体(さくと)の間に何よりも強く生じているはずの、魂の絆だった。

 ルネラナス……君は今……どこにいる……

 作人は己の中の記憶から、ここが精神界(アストラル)と呼ばれる空間であることを導き出す。なぜここへ入り込めたのかは分からないが、作人は今、精神のみの存在としてここに存在しているのだと認識する。

 だが、精神界(アストラル)において当然研ぎ澄まされているはずの作人の精神の力を以てしても、この、あまりにも弱い、今にも消えてしまいそうな彼の存在の様相は――

 彼(か)の存在が己の世界で忙しく、こちらへ接触(コンタクト)を図る余裕がないなどという場合とはまた違ったこの状況。作人はかつてなかったこの奇禍に、大きな不安を心に抱く。

 今すぐ会い、《彼》に伝えたい、伝えなければいけない言葉がたくさんあるというのに……。

 作人はまるでその存在自体が朧となってしまったかのような騎士の精神(スピリット)を求め、己の意志をのせ、精神界(アストラル)に心を手繰る。

『それでも……貴女は間違っている』

 突如、乳白色の霧の中、大きく朔夜の《声》が響き渡り、作人は身を震わせた。

 もはや数十年にも数百年にも思えるこの数週間、一刻も耳から離れることのなかったその声――夢にまで見た愛しい女性の姿が、己の手繰る心の先にあった。作人は、目を見開いて朔夜の姿を覗き見る。

 その愛しさが、己の中に仕込まれたプログラムの働きによるものだと、今や作人には分かっていた。それが己の意志に関係なく造られ、産み出された感情なのだと、十分すぎるほど認識していた。だが……だが、それが何だというのだろう。

 視線の先の彼女は良く似た――だが年の離れた妹のような一人の少女と対峙し、必死な表情を浮かべている。作人の脳裏にこびり付いて離れない、あの翳りのような悲しみをその目に湛え、涙を流しながら必死になって何かを少女に訴えていた。

 まるで自分のことのように、たどたどしく、しかし必死になって言葉を紡ぎ続ける彼女の姿を目にした時、作人は己の中の創られた運命のことも、これまで数限りない人生の中で彼女と出会い、過ごしてきた時間のことも、全て霧の彼方へと置き去りにし、ただ純粋に一人の男として目の前の彼女に恋をしていた。これまでの経緯も今この瞬間に自分に降りかかっている運命も、この先の未来も全て何も関係なく、目の前の彼女を愛しいと思っていた。

 作人は今、たった一人のかけがえのない存在として、目の前の彼女と日常の中で生きてみたいとただ夢見る。何の変哲もない平凡な日常の風景の中を、運命など関係のない、ただ一人の男と女として……。

『分かる? 彼女(さーや)は今、重要な局面を迎えている。なけなしの生命力を振り絞り、時粒子(クロノトロン)の大海の向こう、時空の波の彼方から、《彼》を呼び戻そうとしているの。彼女にとってはまさに神の如き、あの少女を前にして、女神がねじ曲げ、否定してしまった時の流れを、再度正そうとしているの』

『ああ、分かる。彼女がその精神(スピリット)の全てを振り絞り、ただただ目の前の少女の幸せのために、必死になって祈っているのが……』

 まさに一目惚れの如く、その朔夜に目を奪われていた作人は、唐突に己の横から聞こえてきた囁(ささや)くようなその《声》にも、驚き、慌てはしなかった。作人は返事の後、一瞬遅れて朔夜から視線を引き剥がし、霧の中に佇む陽子を見る。その陽子の《声》が告げた《彼》とは、朔夜と少女の間に出現したスクリーンの中に映る存在――己の微かな精神の糸が、吸い込まれるかのように消えていくその先へと連なっている男だった。

 青年は、まるで光すらも逃げられぬ暗黒球(ブラックホール)のような、一分の隙もない闇の深淵に捉えられたまま、ただ己の中に響いてくる愛しい少女の《声》にのみ耳を傾けているようだった。身動ぎひとつせず、ただ、その言葉を聞いていた。

 あの少女の《幸せ》とは、即ちその青年と少女の幸せな未来に他ならない――

 作人は朔夜が、一分の疑いもなくそう考えていることを、その瞬間はっきりと知った。そしてそのために、己の手に余る異界の《力》を、その身に宿してその場に在るということに……。

『彼女(さーや)を今、楽にしてあげられるのはあなただけ――時空の彼方に囚われている《彼》の魂の相似体(クローン)であり、遙かな過去から彼女を愛し、支えてきたもう一人の騎士であるあなた、ただ一人』

 それは、認識し(わかっ)ているわよね。

 陽子は――いや、少女の意志によって生をもらい、陽子の姿を借りたその存在は、作人に向かってそう、頷く。

『現実の中にいる私たちのことは心配しないで。そっちは私が――ここに本来存在するはずのなかった私が、必ず何とかするから。あなたは《彼女》に……誰よりも苦しみ続ける《創世の女神(テリス)》に、最後の幕をひかせないために……今ここで《彼》を死の運命から解放して! 狂った運命の中で、現実と《彼女》を結びつけるただ一つの絆を……その生きていこうとする意志を、断ち切ることを許さないで! それこそが、あなたたちのこの《世界》を……そして《彼》と《彼女》を破滅から救う、たった一つの方法よ。いつだって、この世でただ一人《彼》だけが、《彼女》をその絶望の中から救い出すことができる鍵を持っているのだから……』

 永遠にも等しい永い永い刻(とき)の中を、お互い思い続けてきた運命の相手なのだから――

 陽子の《声》は作人にもその覚えのある、激しく燃ゆる《想い》をそこにのせていく。

 そこには、目の前の少女に対し、誰よりも幸せになって貰いたいという陽子の強い願いが込められていた。己の存在よりも何よりも、かけがえのない大切な存在へと向ける、確かな愛が含まれていた。それが例え相手に届くことはなかったとしても、それでも温かく相手を包み続ける無償の愛が――

 気付いてますか? あなたは、こんなにも様々な人の《想い》を受けているってことを。あなたは、こんなにも様々な存在の愛の中心にいるんだってことを……。

 作人は、朔夜と対立を続ける少女に向かい、心の内側でそう呟く。それこそ、目の前の少女に……己の存在だけでいっぱいいっぱいとなり押し潰されんとしている彼女に、気付いて欲しいと願う現実――。

 だが、違うのだ。

 すぐに作人は自嘲する。彼女にその現実が受け止められるようになるには……彼女がその心に抱えこんだ重荷を解き放つことが出来るようになるには、本当に必要なのはたった一つの安らぎの場所。全てを打ち消す真剣な愛情だけなのだから――

 それは、《彼》にしか与えられないものだった。この世界のはじめから、ずっと変わらず《彼女》を愛し続け、救わんと願っている《彼》にしか……。

 しかし、そのためには、今のままでは駄目なのだ。

 作人は、己の心に芽生えた《想い》に、突き動かされるように前へ出る。

(【地球】13-2へ続く)




nnr.gif ネット小説ランキング>SF部門>遙かなる星々の物語~テラの章~に投票

この章が気に入ったら上記「遥かなる星々の物語~テラの章~に投票」をクリックしてください♪
タグ:創作小説

【遙かなる星々の物語~テラの章~】【炎星】13-2 [遙かなる星々の物語]


 飛鳥と対峙をする陽子の中で、新しい意志が蠢きはじめる。この《世界》の命運を・・・そしてこの《世界》を産み出した《女神》と友人を、守るために彼女が導き出した結論とは・・・
 本日は『遙かなる星々の物語~テラの章~ 完結編』より、【炎星】パートの第十三章パート2を公開します。とりあえず、ルビは()で後ろに付けてますが、読みづらいのはご容赦ください。



『遙かなる星々の物語~テラの章~』概要
この宇宙を遍く、様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。テラの章では舞台となる《楽園》を襲った悪魔族の死の行進により、心を閉ざした眠り姫(テリス:地球)と彼女を目覚めさせようとする騎士(ルネラナス:月)の物語を描いています。

※この物語は【楽園】【炎星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください


登場人物紹介】 外伝1「46億年前の奇跡
プロローグ/【楽園】1/【炎星】1-1/1-2/【地球】1-1/1-2/【楽園】2/【炎星】2-1/2-2/【地球】2-1/2-2/【楽園】3/【炎星】3-1/3-2/【地球】3-1/3-2/【楽園】4-1/4-2/【炎星】4-1/4-2/【地球】4-1/4-2/【楽園】5-1/5-2/【炎星】5-1/5-2/【地球】5-1/5-2/【楽園】6-1/6-2/【炎星】6-1/6-2/【地球】6-1/6-2/【楽園】7-1/7-2/【炎星】7-1/7-2/【地球】7-1/7-2/【楽園】8-1/8-2/【炎星】8-1/8-2/【地球】8-1/8-2/【楽園】9-1/9-2/【炎星】9-1/9-2/【地球】9-1/9-2/【楽園】10-1/10-2/【炎星】10-1/10-2/【地球】10-1/10-2/【楽園】11-1/11-2/【炎星】11-1/11-2/【地球】11-1/11-2/【楽園】12-1/12-2/【炎星】12-1/12-2/【地球】12-1/12-2/【楽園】13-1/13-2/【炎星】13-1/13-2/【地球】13-1/13-2/【太一】1/2/【零――時の接合点――或いは無限】
Next Story -> 【ウェヌスの章

【炎星】13-2

「クク……クククククク……」

 あと少しで、望みが叶うというこの時に……。

 飛鳥は自分が《能力(チカラ)》を使えないこの状況で、どうすれば最悪二人の能力者――ひいては三十人からの信者まで敵に回してこの場をしのぐことができるかを計算する。

 何を……しているのですか、アシュタロス様……。

 あまりに不利な状況に思わず出かかる己の中の弱音。だが、次の瞬間にはそれを心の奥深くへ仕舞い込み、飛鳥はギロリと和美に対して視線を向ける。

 まだだ……己があの方の足手纏いとなることは許されない……時が来れば、必ずあの方は訪れるのだから……。

「よろしい。なら、君の言う通り、不本意ながらも我々がこの《世界》に害を為す、不埒(ふらち)な存在であると仮定しよう」

 飛鳥は、冷徹な仮面を被り、徹底抗戦の構えを見せる。

「何……違うの?」

 そんな飛鳥に向けられる、まるで炎を内在させているかのような灼け付く視線。

「いや、違わないさ。より好みで言うならこの《世界》ではなく人類という癌細胞に対して害を為すとして欲しいところだが、まあ君らの視点に立てばそれも大差ない」

 飛鳥はその視線に炙(あぶ)られながら、油断なく己の置かれている状況を確認する。

「しかし、そう仮定した場合、そのような行動をすることによって、我々には果たしてどのような得がある? まだ萌芽にすぎないような昔から、永い永い年月をかけ、人類という種を堕落させることが……果たして僕や……あの方にとって、どのような意味を持つことになるんだ? そうまでして我々を元凶と呼ぶ君だ。もちろん、この答えも納得がいくものを用意してくれているのだろうが……それが説明できない限り、この仮定は根本(こんぽん)から崩れるというのは、もちろん分かっているね?」

 和美は……対処できる。信者はまだ半信半疑だ。見たところ、どちらに付くかを迷っている。陽子は抱えた子供が弱点となりうるか。年端も行かぬ子供が二人いることを考えれば、能力者だとしてもあるいは……。となると、最大の懸念はやはり奴だが――。

 いったい、何を考えている……。

 飛鳥は先ほどの論戦での敗北以来、一言も言葉を発しない作人をちらりと見る。

「それは……世に言う悪魔は……人類の堕落そのものを目的として……」

 蒼い……忘我の表情(かお)……。

 飛鳥の目に入った作人は、中空を見つめ、意識が深く精神に入り込んだ様をしていた。精神界(アストラル)に接触を持っているが故の、軽いトランスにも似た状態――

 だとすれば少なくともすぐには動けないはず……。

 飛鳥は自信なさげな和美の言葉を、フン、と鼻で切って捨てる。

「それは何のためにだ? 自らを創り、育んだ神に対する反逆としてか? それとも、自分よりも神の寵愛(ちょうあい)を集める人類に対する嫉妬とでも言いたいのか? だが、それこそ、人類特有の浅はかで傲慢な考えにすぎない。その発想はそれ自体、自分たちこそが神の寵愛を得るに足る――言い換えれば悪魔が神へ対する攻撃の標的とするに足る、この《世界》や神にとって重要な存在であるという無意識の驕(おご)りを含んでいるのだからな。そのようなもの、人類そのものがその辺りにいる虫けらと同じ、数多ある生命の一つにすぎぬと前提を変えた瞬間、意味がなくなる論にすぎない」

 君たちは自分がそれ程までに貴重な存在だと、どうしてそうも盲信できる?

 飛鳥の問いは、和美や陽子に自らの存在意義に関する根源を問い直すことを突き付ける。

「そうね……私たちだけが神に愛されていると考えることは、確かに人類の傲慢さの現れかもしれない」

 思わず、う、と声を詰まらせた和美に代わり、揺るぎない声で答えたのは陽子。

 それは、陽子が〝彼女〟に教えられたもの。何よりも弱く、苦しみ続けた彼女は、最期には人類を呪い、ヒトに虐げられた弱いモノたちの《精神の波(ネットワーク)》をその身に呼び込み、高等人類(アトランテ)を滅ぼした。その瞬間、彼女は――文字通りこの世界の神とも言える《星の女(マザー・アース)》は、人類を何よりも憎んでいた。この《世界》を何よりも呪っていた。

 陽子は彼女が呼び起こした大破壊(オーバードライブ)の中、どす黒い精神を呼び込み続ける彼女の心に触れ、その事を何よりも思い知らされたのだ。心の奥底で人間を誰よりも信じたいと願い、愛し愛されることを願っていた彼女の心は、その瞬間確かに人類から遠く離れていた。確かに他の数多ある生命の何よりも、人類は神の愛を喪(うしな)っていた――。

 この景色と同じく陽子の脳内で朧気に重なる、本来残り得ない記憶の残滓(ざんし)がそう告げる。そこにあるのはついに彼女を救えなかった悔しさ、悲しみ、諸々の感情――そして、同じくらいの強さでそこに重なる、完全なる「無」の記憶。

 それは、陽子の中に突如出現したその存在の、相容れない二つの末路だった。この現実の異変と共に突如現れ、現実と同じく半分のみが朧に重なる、その存在、その記憶――それこそが、陽子が少女(テリス)の犯した罪に気付いた根源であり、彼女の未だ苦しみ続ける心の裡を推し量る源泉だった。

 朔夜……陽子は十年来の親友の、ふわふわした中に時折見せるドキッとするような苦しみの影を思い浮かべて独り、頷く。

 もうこれ以上、《彼女》に辛い想いをさせてはいけない。この狂った運命の連鎖は、もうここで断ち切らなければいけない。

 陽子はそう語りかけてくる心臓に、そっと己の手を乗せた。

 だからこそ、今は自分が矢面に立ち、少しでも時間を稼いでやらなければいけないのだ。誰にも邪魔されない、彼らだけの時間を――彼と、彼女と……この《世界》の行く末のために。それが例え、己の全てを賭けることになる行為だとしても……。

「でも……」

 陽子は遠く彼女を見つめ、己の前に立つ存在に向かい、口を開く。

 悪魔たる《彼》の注意を少しでも長く、自分に惹き付けておくこと。それが、陽子が自分に課した役割。あの絶望の中から彼女を救うことができなかった陽子の、自分なりのケジメの付け方だった。

 ゴメン勇代、雅代。最悪の結果になっても、恨まないでね――

 陽子は己の勇気を確かめるように、確固たる芯の強さを持つ彼女の中の存在に触れる。その陽子の接触に対し、彼女は赤い髪をなびかせながら、そっと、だが力強く頷いたように陽子は感じる。

「でも、人類という種が、神に――《創世の女神》にとって、特別でない、なんてことは有り得ない! でなければ、彼女が、騎士が、創星界(エデン)の住人が、そして貴方のような存在でさえ、おしなべて人の姿を纏って現れることに、説明なんて付けられないわ! 『神は自らの姿に似せて人を造りたまへり』――そう、この言葉こそ、ある種の真理を含んでいるのよ。だからこそ女神は己の似姿たる人類の愚行を、その未熟さを見て、悲しみ、絶望し、憎悪するのでしょう? それこそ禁忌を犯してでも過去を変え、全て消し去りたいと思うほどに。だとすると、貴方の目的は、そうやって女神の絶望や憎悪をあおり立て、ちょうど今がそうであるように、現実を望むがままに書き換えること。……いや、違うわね。例え現実を塗り替えられたとしても、それが己の望むものになるなんて保証はどこにもないのだから……」

 陽子の言葉を聞く飛鳥から放たれる存在感が、先ほどから刻一刻と高まっていっているのが感じられる。できれば、全てに決着が着くまで現れないで欲しかったのに――陽子はカラカラに乾いていく喉に、ごくりと唾を落とし込む。

「そう、だとしたら、貴方の――悪魔の目的はたった一つしかないわ! 女神の絶望を極限まで推し進め、この《世界》を産み出した彼女の自信を喪失させること。それこそ、もう自分でこの《世界》を育てることなどできないと彼女が思い込むまで。自分が育てていてもこの《世界》のためにはならないと、彼女が信じ込んでしまうまで! そうして主のいなくなった《世界》を手に入れ、我がモノとすることこそ、貴方がたの目的であり報酬よ! それこそが長い年月をかけて人類という種を堕落させ、間違った方向へと導く動機!! どう? これでも貴方は、自分が全ての元凶とは成り得ないと、愚にもつかないシラを切り続ける気なのかしら?」

 それは、かつて母だった《彼女》と、今まさに母である陽子だからこそ辿り着いた結論。この《世界》をそっくりそのまま母である少女から手に入れるには、どうするのが一番効果的かを考え抜いた末での回答だった。

 その言葉に、固唾を飲んで陽子と飛鳥の論戦の行方を見守っていた和美が、もともと大きい目を更に大きくして飛鳥を凝視する。

「……クッ……クク……クハハハハハ……」

 再び、視線の集中砲火を受けた飛鳥が、唐突に、さもおかしいといった笑い声を上げる。それはこの短い問答から、自らも思いも寄らなかった回答を聞くこととなった驚きを表した笑いであり、今まで誰も辿り着いていない真実へとこれほど肉薄した陽子に対する賞賛の笑いだった。

「いや、惜しい。誠に惜しい。あと少しで正解だ。まさか、あのお方の壮大な計画に、ここまで近づける者がいるとは思わなかったよ。火群……陽子君だったか。短い生命しか生きられぬ存在にしては、なかなかの洞察力と誉めてやりたいところだが――やはり君もまた、あのお方と因縁浅からぬ者の依り代だったりするのかな」

 ギン――と陽子の背後まで見透かすような鋭い眼差し。

「だが、それが誰であろうともういい。どうせ知ったところで、君もろともここですぐに消えてしまうことになるのだから。あの方も、どうやらこれ以上、計画に支障がでるのはお気に召さないようだしな……」

 見る間に、飛鳥を包む空気の密度が変わっていくのが分かる。それは、恐ろしいまでの威圧的な空気。陽子は知らずガクガクと震え出す足を意志だけで押さえ込み、まるで皆を護るかのように飛鳥に向けて一歩、踏み出す。

「正解にこれほど近づいたご褒美に、最後に一つだけ教えておいてやろう。この《世界》に巣喰う人類が、この《世界》の癌細胞として産み出されたものであるというのは本当だ。そして、僕は《女神》をどこまでも傷付けるそんな醜く愚かな人類が、目の前から全てを消し去りたいほど――本当に憎くてたまらないのさ!!」

 そして、この世の全てを滅ぼす悪魔が、この《世界》へとその姿を現した。

(【地球】13-1へ続く)




nnr.gif ネット小説ランキング>SF部門>遙かなる星々の物語~テラの章~に投票

この章が気に入ったら上記「遥かなる星々の物語~テラの章~に投票」をクリックしてください♪
タグ:創作小説
前の10件 | - 遙かなる星々の物語 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。