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【遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~】【楽園】1-1 [遙かなる星々の物語]


 のっけから大幅に更新が遅れてしまって申し訳ありませんorz 1月は精神的に厳しかったとはいえ、まさかここまで延びてしまうとは・・・T^T 期待して待っていてくださったみなさまには本当に返す言葉もありません。ようやくペースが掴めてきて、今後はスケジュール通りに更新できると思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 本日はウェヌスの章【楽園】パート第1章その1を公開します。ルビ等は単語のあとに()で記載してあります。ちょっと読みづらいですがご容赦ください。【最終更新日:2011/03/03(挿絵追加)】

 イラスト:蓮花さん(サイト:「枯花」) 感謝♪


テラの章】 <- Previous Story                         Next Story -> 【???】

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『遙かなる星々の物語~ウェヌスの章~』概要
この宇宙を遍く様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。ウェヌスの章はテラの章に続くこの太陽系創世紀のお話――金星創造をテーマとしたストーリーです。
《あらすじ》
 地球の現実を変異させた女神(テリス)現出事件から十三年、朔夜は作人と結ばれ二児の母となっていた。創星界(エデン)とのコンタクトもなくなり、平凡な幸せを謳歌(おうか)していた朔夜はだが、久しぶりに『記憶(エピソード)』の奔流(ほんりゆう)に襲われる。
 この惑星、いつか在った時代、無有(ムウ)亜大陸の亜須華(アスカ)という都市に、亜紗(アーシヤ)という乙女が暮らしていた――。
 突然蘇った『記憶』は、朔夜にその都市に起こった未曾有(みぞう)の大災害を幻視させる。この過去は、朔夜に何を伝えたいのか? 全ての『記憶』の起源たる女神(テリス)の身に、いったい何が起こったのか? この現実に、また何か事件が起こるのか……?
 『世界』を巡る新たな戦いの火蓋が今、切って落とされた。

 過去から未来まで、『世界』全てを巻き込んだ壮大なる物語。
 『世界』が変質を繰り返した先で、【悪魔】は【女神】となる――

※この物語は【楽園】【冥星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください

登場人物紹介
プロローグ/【楽園】1-1/1-2(2011/02/27公開予定)》


【楽園】1-1



 暖かく降り注ぐ陽差し、絶えなく流れる悠久(ゆうきゆう)の調べ。

 鳥は歌い、花々は華やぐ。

 鼻孔いっぱいに広がるふくよかな香り。

 髪を揺らしていくそよ風のささやきは優しい言葉を耳に残し、さらさらとした木々の葉ずれは心に平安のリズムを運んでくる……。

 全てが優しさと暖かさに満ち、存在そのものを謳歌(おうか)している――そんな《世界》。

 これが、お母さまが創った《世界》……。

 暖かな春のそよ風が首筋を撫(な)でていくのを感じながら、テリスは立ち止まり目を閉じた。

 この《世界》の奏でる言葉を全身の感覚で感じ取りたい……この優しさに満ち溢れた素晴らしき《世界》の音楽をその魂で聴き取りたい……。

 耳をくすぐる鳥たちのさえずり、木々や花々の葉ずれの音……身体をなでる空気の波は、溢れんばかりの生命の謳歌に満ちている。

 目を閉じれば、まぶたの裏に踊る煌めき。生きとし生きるモノの歓喜の渦――

 全身の感覚を研ぎ澄ませたその瞬間、まるで爆発したかのごとくに生きることへの喜びがテリスを包む。

 まるで自分の細胞の一つ一つまでもが喜びの声をあげているかのようだ。《世界》から押し寄せる生命の煌めきに感応したかのように、自分の身体の細胞の一片に至るまで得も言われぬ幸福感に沸き立ち、弾けて《世界》の中へと溶け出していく……。

 そう、それはまさに生けとし生けるモノの奏でる歓喜の輪曲(ロンド)だった。この《世界》とそこに生きる全ての存在(モノ)が渾然一体となって奏でる生の賛歌。そこにはただ生きて存在していること、それ自体への感謝と喜びに満ちていた。

 光と優しさに包まれた至福のひととき――

 そこはまさに《楽園》と呼ぶにふさわしい世界だった。

 わたしも、このような《世界》を宿せていたなら……。

 目を閉じたまま空を仰ぐテリスの頬に、知らず一筋の涙が伝う。

 存在の始めからその向くべき方向を間違えてしまったわたしの《世界(こ)》――この優しく暖かな《世界》に比べ、なんて寒々しく痛みに満ち、そして貧しい《世界》なんだろうか……。

 本来、暖かく光に満ちた祝福されるべき存在として生を受けるはずだったわたしの《世界(こ)》は、闇と絶望の呻(うめ)きの中で、その産声をあげてしまった。あまりにも弱いわたしの心と、愚かしい望み(エゴ)のために、その存在すらねじ曲げられて……。

 つ――反対側の頬に流れ落ちるもう一筋の雫。

 でも……それでも……どれだけ愚かしかったとしても、どれだけ青臭く間違った行為だったとしても、わたしはこの望みを止められなかった。自分にとってこの《世界》にも等しかった大事な半身――文字通り魂の片割れを失いたくはなかったから……。

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 だが、その望みの代償はあまりにも大きかった。

 それは、すぐに思い知らされる。

 その結果、少女に宿ったのは鬼子のような不具の《世界》――痛みと苦しみと絶望に彩られた歪んだ《世界》……。

 まさかあの時あの瞬間、《宿す者》の能力(チカラ)が発現するとは、テリスは想像だにしていなかった。《創星の女神》にとって一番大事なその能力。それまでその予兆や片鱗すらなかったそれが、まさに最悪のタイミングで自分の中に宿ることになろうとは……。

 いや、よそう――テリスは力なく首を振る。

 過去を悔やんでもしょうがない。あの時、あの瞬間、わたしは確かに望んだのだ。この、痛々しい《世界》の出現を。己の心にのしかかる現実の重さに圧し潰され、どこまでもどこまでも、己の望みのままに逃げ込む《世界》を求めてしまった。百億の悲劇と百兆の不幸とそれを上回る痛みと苦しみ――その源になるとは夢にも考えずに、ただただ、己のエゴのままに《世界》の創造を願ってしまった。そしてその強い強い望みに、この《能力(チカラ)》が引きずられてしまった……たぶん、そういうことなのだろう。

 一つの《世界》をその身に妊(はら)むには、あの時のわたしは幼すぎた――

 もはや変えられないその事実が、鋭い痛みを心臓に宿す。

 そう、ただただ申し訳ないのだ。不完全な幼い精神のままに形作られてしまったがために、不具となってしまったこの《世界(こ)》に謝りたい。本来もっと幸せに、喜びに満ち溢れて存在できるはずのこの《世界》を、自分の未熟さから、こんな辛い、苦しみの中へと放り込んでしまった。謝ってすむことではないが、そのことをただ謝りたい……。

 喜びに満ちた生命の賛歌に包まれながら、テリスは天を仰ぎ涙を流す。

 でも……それでも……。

 例えどれほど醜くあろうとも、どれほど忌み嫌われるべきモノであろうとも、テリスはその《世界(こ)》を見捨てることはできなかった。己の中に宿った生命(いのち)に、不思議な愛おしさを感じていた。

 そこに宿る無限の魂から恨まれののしられたとしても、わたしだけはこの《世界(こ)》を祝福してあげたい――。

 そう、心から願っているはずなのに……。

 なんでこんなにも涙が出てくるのだろう。なんでこんなにも悲しくてならないのだろう……わたしはこの《世界(こ)》に……厳しく辛い運命を背負わせてしまった我が《世界(こ)》に……何をしてあげることができるのだろう……。

「それ以上、自分を責めるのはやめた方がいい」

 泣き咽(むせ)ぶ背後からふわり――と肩に回される腕。

 ザザァ……と風が周囲に渦を巻いていく。

「聖太母(ソリス)様も言っていた。《世界》の在りようはまだ決まったわけではない、と。限りない愛と慈しみの心で、これから歪みを正していけばいい。そう、決めたはずだろう……だからそんなに自分を責めるな」

 背後から聞こえる優しいバリトン。振り向かずとも分かる。いつ、いかなる時でも《蒼地の女神(テリス)》を護り、支える唯一の騎士。隻腕となったその腕で、それでもテリスを優しく包む、強き魂(スピリツト)を持った人――

 この言葉に素直に従えたらどんなにかいいだろう……。

 その温かな気配にすがりつきながら、テリスの両目から大粒の雫が落ちる。ともすれば嗚咽(おえつ)になりそうな声をぐっと堪え、唇を噛みしめるように声を出す。

「でも……今まで生じた数多(あまた)の苦しみや痛み、悲しみや憎しみは消えやしないわ。分かるの。この《世界(こ)》が苦しんでいるのが。抱えきれないほどの怨嗟(おんさ)の声と負の感情(エネルギー)に己の裡(うち)を喰い潰されながら、なんとかしようと……でもその存在の方向がそもそも歪んでいるが故に、ますます悲劇を……負の連鎖を生じさせてしまう……そんな救いのなさの中で……」

 最後の方は嗚咽に消えていってしまったかもしれない。それを察したのか、テリスを包み込む腕にぐっと力が入る。

「その救いのなさこそ我々の咎(とが)。その苦しみの永劫輪廻から《胎内世界(エンブリオ)》とそこに宿る魂を解放する途(みち)を、我々は探さなければならない」

 共に、苦難の途を歩んで行こう――そう囁(ささや)く隻腕の騎士(ルネラナス)。

 何があっても独りではないから……どんな苦難も過ちも、独りで背負い込む必要はないから……。

 その《想い》は、テリスの凍えた心に落ちる。

「だめね……わたしったら……。この《世界(こ)》が苦しんでいるからこそわたしが頑張らなければならないのに、先に悲しみに負けたりして……。そんなんじゃ、救えるものも救えないわ……」

 両の目から落ちる涙をスッとぬぐうと、ルネラナスの腕から逃れるテリス。そのまま前に二、三歩進むと、風に舞うスカートを押さえてくるりと振り向く。

「《創星》はまだ終わったわけじゃない。むしろこれから……どんな《世界》を思い描き、どんな《世界》を形作るか。この《世界(こ)》の成長した先……どんな未来を用意するかはわたし次第。わたしの心はそのまま《胎内世界(エンブリオ)》に影響していく……だから……」

 正面から愛しい騎士の顔を見て、肯くテリス。

「何より、わたし自身がこの《世界(こ)》とその行く末を、信じてあげなければならない。その、明るい未来を、心に描かなければならないんだわ。お母さまにもそう言われたもの……わたしの能力(チカラ)は、そのために振るう」

 顔に宿る、ふわりとした微笑み。だが、そこには悲しみや苦悩や、諸々の苦しみを押し殺した跡があった。

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「テリス――」

 無理はするな――その表情に思わず足を踏み出しかけるルネラナス。

 ザザザッ――と足先で擦れた草が鳴る。

「でも……でもね……わたしの心は弱いから……」

 ルネラナスの目の前で、女神(テリス)の表情が変わっていく。微笑みから泣き笑い……そして悲しみを宿した表情に。

「たぶん今、この瞬間と同じく、わたしの心が悲しみに負けそうになってしまう時が来る。希望に満ちた行く末を、描けなくなってしまう時が来る。この《世界(こ)》の抱える絶望に、負けそうになってしまう時が来る。その時は――」

 すっ――と何かを求めるかのように差し出された手。隻腕の騎士(ルネラナス)は一歩、強く踏み込みその手を掴む。

「どうか、どうか、わたしにこの温もりを思い出させて。わたしが独りで戦ってるんじゃないと、思い出させて。さっきのように、わたしの心を覚まさせて……」

 お願いします。わたしの騎士さま……。

 《声》が、涙と共に地に落ちた。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


(【楽園】1-2へ続く)


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