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【遙かなる星々の物語~テラの章~】【地球】13-2 [遙かなる星々の物語]


 いよいよ通常パートの最終回。アストラルを部隊にしたせめぎ合いに決着が付きます。
 女神の絶望は癒せたのか、歪んだ運命は修正出来たのか、テリスは、ルネは、朔夜は、作人は・・・
 絡み合う運命をお楽しみ下さい^^
 本日は『遙かなる星々の物語~テラの章~ 完結編』より、【地球】パートの第十三章パート2を公開します。とりあえず、ルビは()で後ろに付けてますが、読みづらいのはご容赦ください。



『遙かなる星々の物語~テラの章~』概要
この宇宙を遍く、様々な星々の物語を、独自の世界観の元に擬人化して描く大河SFファンタジー。テラの章では舞台となる《楽園》を襲った悪魔族の死の行進により、心を閉ざした眠り姫(テリス:地球)と彼女を目覚めさせようとする騎士(ルネラナス:月)の物語を描いています。

※この物語は【楽園】【炎星】【地球】の三パートがパラレルで進んでいく構成となっています。それぞれで舞台および登場人物が違っていますのでご注意ください


登場人物紹介】 外伝1「46億年前の奇跡
プロローグ/【楽園】1/【炎星】1-1/1-2/【地球】1-1/1-2/【楽園】2/【炎星】2-1/2-2/【地球】2-1/2-2/【楽園】3/【炎星】3-1/3-2/【地球】3-1/3-2/【楽園】4-1/4-2/【炎星】4-1/4-2/【地球】4-1/4-2/【楽園】5-1/5-2/【炎星】5-1/5-2/【地球】5-1/5-2/【楽園】6-1/6-2/【炎星】6-1/6-2/【地球】6-1/6-2/【楽園】7-1/7-2/【炎星】7-1/7-2/【地球】7-1/7-2/【楽園】8-1/8-2/【炎星】8-1/8-2/【地球】8-1/8-2/【楽園】9-1/9-2/【炎星】9-1/9-2/【地球】9-1/9-2/【楽園】10-1/10-2/【炎星】10-1/10-2/【地球】10-1/10-2/【楽園】11-1/11-2/【炎星】11-1/11-2/【地球】11-1/11-2/【楽園】12-1/12-2/【炎星】12-1/12-2/【地球】12-1/12-2/【楽園】13-1/13-2/【炎星】13-1/13-2/【地球】13-1/13-2/【太一】1/2/【零――時の接合点――或いは無限】
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【地球】13-2

 いくら相手を大切に想おうと、いくら相手のことを愛し、幸せにしてあげたいと願おうと、それは相手にきちんと届いていなければ意味がない。相手が思う強さで、相手が思うタイミングで、相手の心へときちんと届かなければ意味がないのだ。本当に相手と幸せになりたいと思うなら――相手を幸せにしたいというだけではなく、相手との幸せを願うのであれば、それは数多ある無償の愛と同じであってはいけない。一方向の、見返りを考えない包み込むような愛のままであってはいけない。伝え、対話し、己の持つ幻想を打ち破り、時には自らの持つ《想い》に大きくブレーキをかけたとしても、一人一人の持つ愛を二人で育てる愛へと変えていかなければならないのだ。相手の幸せを願うのであれば、その分、自分の心を守る幻想というバリアを打ち破っていかなければならないのだ。

 それは、時に身を斬るように辛く、苦しい作業ではあるけれど、本当に相手の幸せを……そして己の幸せを、もたらすためにはどうしても必要なこと……。

 それが今の《彼》……ひいては今の《彼女》に、圧倒的に足りないもの。しかも、二人とも己に、そして相手に視野狭窄(しやきょうさく)を起こしすぎ、その事に全く気付いていない。それが……それこそが、この狂った運命をもたらしてしまった原因にある。二人の永いすれ違いの歴史にある。

 その事に、作人は気付いてしまっていた。そして作人と同じく永い刻(とき)を内見し、今、目の前の運命に必死になって抗おうとしている、か弱く心優しいあの女性もまた……。

 いや、「か弱い」とか「心優しい」などというのも、作人がその印象から勝手に作り上げた、幻想と言ってもいいのかもしれない。これまでの〝彼女〟の記憶から導き出した、こうあって欲しいという勝手な願いなのかもしれない。これまでの彼女がどうであれ、作人は今好きになった――そして今まさに救いたいと思っている彼女のことは、全くといっていいほど知らないままなのだから……。

『ほら、聞こえるでしょう? 彼の……《声》が――』

 今にも力尽きそうなくらい、存在が朧になってきた朔夜の、祈りのような《声》が聴こえる。

 伝えよう、自分の想いを。ぶつけよう、自分の精一杯の行動を。例えこの先、どのように変容していくことになったとしても、まさに今、自分が彼女を想い、彼女と今生で幸せになりたいと思っているのは疑いようのない事実なのだから。この《世界》の命運の行方にも負けないくらい、その心に触れたいと思っているのは確かなのだから。

 彼女の心を知るために、彼女と真の対話を行うために、作人が今、やるべき行動はたった一つ――

『ルネラナス……戻ってこい! このまま《彼女》を苦しみの只中に置き去りにすることなど、お前には絶対出来ないはずだ!!』

 作人は朔夜が背負っている苦しみに、その必死な《想い》に自らの《想い》を重ね、彼女が己の存在を磨り減らしながらも保ち続ける接続を――制御し続けている《D》の能力(チカラ)を、己が精神の力でもって制御しようと試みる。

 突如、のしかかってくる凄まじい激痛――

 この世のものとは思えない万力のような意識への締め付けと、徐々に分解され消え頼りなくなっていく己が存在への恐怖心に、作人は朔夜が見かけの頼りなさとは裏腹に、遙かにタフで強靱な精神力を有していることを知って、驚嘆する。この女性はこれほどまでの苦痛の中にいながらも……これほどまでの恐ろしさの只中にいながらも、自分と共にあった少女のために必死に、より良い道を模索していく強さを持っている人なのだ。そんな心を、内に秘めている人なのだ。

 それは作人を何重にも覆っていた幻想の鱗が、一枚、ゆっくりと剥がれ落ちた瞬間。

 己にのしかかる重圧が、急に減じたことに気付いたのだろう。朔夜が、己に寄り添う作人の存在を見、そして、ゆっくりと、強張った表情を動かしてにっこりと笑いかける。

 ドキリ――

 それは泣き笑いのような、苦しげであまり上手くはない笑顔だったが、確かに作人に何かを伝えてきた。その存在を認識し、今この場で助力をしてくれた行為に対し、伝えきれない感謝の意を込めてあった。

 一人で背負っているその苦しみを、他にも肩代わりできる人はいる。一人では力が及ばないかもしれなかったことも、二人であればきっと届く――。

 作人もその、言葉にならない朔夜の想いに、全身全霊をかけてまた応える。

 だから二人で、この宿命の決着を付けよう。すれ違い続ける悲しい二人の、背中を少し押してあげよう――

 そう、込めた想いが果たして朔夜には伝わったのかどうなのか――

『今の貴女のように……そうやって自分勝手に相手の気持ちを推し量って……自分勝手に判断して……それで相手のことをきちんと考えているなんて思うのは、幻想以外の何ものでもない……。長い間この《世界》を見てきた貴女なら……そういった独りよがりのすれ違いが原因で、一体どれだけの悲劇が起こってきたか……分からないわけじゃないでしょう……? ほんの少し、相手の真意を確認する労を惜しんだ結果……真実との間にできてしまう途方もない大きな溝を……知らないわけじゃないでしょう……? 貴女は……貴女はこの星を……この《地球(テラ)》を司る神なのかもしれないけど……そんな基本的で大切なことをまったくもって分かってない! 貴女がそんなだから……この《世界》も……私たちも……こんなにも歪んで……こんなにも苦しまなくてはならないのよ……己の罪の責任をとると言うのなら……逃げずに罪と向き合うというのなら……貴女はまだ、やらなければいけない事があるでしょう?!』

 それは朔夜と――作人の想い。乳白色の霧に包まれた精神界(アストラル)の空間の中を、満身創痍の朔夜の《声》が木霊する。

 その、生命を燃やし尽くすかのような必死の叫びは……互いに支え合う作人と朔夜のその姿は、果たして何か少女を揺り動かすものがあったのだろうか。おずおずと、躊躇(とまど)いがちに、固く結んだ己の口を、少女が逡巡しながらも開いていく。

『わたしは……』

 震える唇から紡ぎ出される、弱く頼りなげなか細い《声》。

 それは今まで少女が見せていた、この《世界》のため非情にならんとする冷徹な仮面をはぎ取り、弱く脆い一人の傷ついた少女の心をただ表す。愛しい人にしがみついてしまってもいいものかどうか逡巡する、一人の少女の本当の姿を――

 そして、その心は遙かな過去へと幽閉された、《彼》にもまた分かったのだろう。

『テリス……俺は……俺は何よりも君を救いたい。君の前に行って、君の顔を見て、そして君に伝えたいことがたくさんある。君と話したいことがたくさんある。この世界で一度は死を覚悟した命だが、君が望まぬままに俺を消そうとしているのなら、ここでこのまま消えたくはない。君を、このまま残していきたくはない! もし……もしも、君にも俺と同じ、悔恨という気持ちがほんの少しでもあるのなら……やり残したことがまだあると感じるのなら……俺を呼んでくれ、テリス! そして、力を合わせて互いの笑顔を取り戻そう! あの、幸せだった《楽園》の日々のように!!』

 分厚い時粒子(クロノトロン)の壁を貫き、強い強い青年の叫びが、作人の精神を伝って届けられる。それは、何よりも迷い揺らいでいる少女の心に強い共振を引き起こし、少女の瞳から一筋の涙をこぼさせる。

『ル……ネ……』

 少女の唇から漏れ出でる、細く微かなその呟き。

 それが精神界(アストラル)の空間に波紋となって拡がった瞬間――




 突如沸き上がった激流の如きエネルギーの奔流に押し流され、作人たちは精神界(アストラル)から現実の中へとはじき出されていた。

(【太一】1へ続く)




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